「すごいだろ、これ」
「うん。レシピノートより、ずっとすごい」
大叔母さんが暮らしていく中で知ったことや蓄えた知識が、家電によくある「よくある質問」コーナーのようにまとめられていた。
そしてノートの終わりごろ、急にページが重たくなった。
「写真だ」
上部の空白に「食器」と書かれたそのページには、ついさっき私がシンクに動かした食器たちの写真が一種類ずつ丁寧に貼ってあった。
ノートを広げたままシンクへ移動する。試しに一番最初にある写真と同じ青いバラが描かれたティーカップを探してみた。
「あった。これだね」
ゴム手袋をした手で引き上げる。表面が貝のようにキラリと不思議に光る、小さなカップだ。
「説明書きによると、これは大叔母さんが友人山田君と中本さんの結婚式で引き出物に貰ったものらしい。一番のお気に入りだそうだ」
あとこっちは、とお兄ちゃんがシンクの中を指さした。白地に赤い花と牛車が描かれた茶器だ。
「それは大叔母さんの先代が旅先で買ってきたセットらしい。石川県の九谷焼」
「へえ。九谷焼。初めて聞いた」
「ちなみにこの茶器は五つ一揃いだったが、大叔母さんの友人ユリさんが洗い物をしてくれた際に一つ割れてしまったらしい」
「あらまあ」
私たちは二人暮らしだし、来客の予定もないので、四つもあれば充分だ。
「そのうち、俺たちのお気に入りもできていくんだろうなあ」
そうだね、と言いながら、私は持ち上げたままだったティーカップをぽちゃんと消毒液の中に戻した。そして、その衝撃で広がった波紋にぷかぷかと揺れる色とりどりの茶碗や小鉢や急須たちを、じっと眺めた。
「はい、今日のごはんは肉じゃがを喜一さんの内祝い萩焼の大皿。ホウレンソウのお浸しを幸三さんのお土産有田焼の小鉢。そして私特製炊き込みご飯を麻子さんお手製の清水焼お茶碗と、お味噌汁がホームセンターよしたけの特売お汁椀です」