お兄ちゃんにどいてもらって引っ張り出す。コロンとした、丸い形の椅子が二つ。埃は被っているものの、その下のものは朽ちていないと確信できる固さと手触りだった。ソファの骨組みに木の皮を巻き付けたようなつくりだ。身近で例えるなら、籠バッグが椅子になったような。
「籐だよ」
「トウ?」
さらりとこいつが何であるか当てたお兄ちゃんの顔を見上げると、その目はこの家を見た最初の時と同じぐらい輝いていた。
「今はあんまり流行ってないけどさ。いいものなんだよ。軽くて、丈夫で、長持ちで。ひとつひとつ職人の手作りらしいぜ」
「へえ」
「たぶん、乾いた布で埃を落として、風の通るところに置けば充分使える筈だ。座面も朽ちてないみたいだし。これを新居のリビングチェアにしよう」
そうだね、と相槌を打った私は、もう押入れの奥に何もないか確認するためにもう一度首を突っ込んだ。
「この押入れ、妙に深いね」
だから椅子が仕舞えていたのだろう。普通の押入れの倍ほどの奥行がある。段がなく、代わりにハンガーパイプが二本ついている。
「ここも、大叔母さんがリフォームしたんじゃないかな。じいちゃん以外全員が大工仕事に長けた一家だったって話だし。これぐらいならセルフでやったのかも知れない」
「何それ、初耳」
「昔正月に俺が古民家再生的な雑誌読んでたら、笑ってた。やっぱり家系なんだなって」
「へえ」
その古民家再生的な雑誌の類を全部引っ越しのどさくさに紛れて処分してしまったので、急に後ろめたくなった私はそそくさと別の部屋へ逃げた。
私がそれを見つけたのは、それから三日ほど経った朝。掃除も荷搬入も終えて、あとは食器の消毒だけだと浮かれていた時だった。