設備が付いていたのは廊下を挟んだ反対の部屋だった。一番広くて、たぶん目測で十二帖ぐらい。半分ずつフローリングと畳に分けてあって、フローリングの方の壁にはキッチン設備が、畳側の壁には仏壇と床の間があった。
「だからさ、たぶん大叔母さんがリフォームしたんだよ。元々のキッチンはこっちの部屋で、向こうに移設したんだ」
「へえ。なんでだろ」
純粋な疑問を投げ掛けると、お兄ちゃんは黙ったまま「移設された」と言う今のキッチンの奥へ進み、私が開け方が判らないまま放っておいた窓と雨戸を手品のように開けた。瞬間、外から入って来た光にチカっとした痛みを感じる。
「ああ、やっぱり」
弾んだ声が聞こえた。何度も瞬きをしながら「燈子、こっちにおいで」と呼ばれる声の先に向かうと、そこには先程見た、雑草蔓延る広い広い庭があった。
「ここが一番日当たりが良いんだよ。庭もあって景色も良いし。たぶん一番過ごしやすいところに、一番長く過ごす部屋を持ってきたんだ」
お兄ちゃんはそのまま全ての窓と雨戸を開けていった。なんと庭に面した壁一面が窓で、今まで暗い印象だったのが、午後の光がまっすぐ入ってくる、明るくてキラキラした部屋に様変わりした。
「いいよな。こういうの。古いだけじゃなくて、住んでた人の手が加わって紡がれてるこの感じ。建てた人以外の手が既に入ってるなら、俺たちがさらに何か加えたところで怒られる心配もない」
「怒られるって、誰に」
「建てた人に、あの世で」
部屋は全部で九個あった。そのうち用途がはっきりわかる部屋は、脱衣所、お風呂、トイレ、キッチンの四つ。残りの居室は、大きさが非常にまばらだった。特にお風呂より奥に作られた部屋たちは、六帖と四畳半と三帖という奇妙な配分だ。
「とりあえず、この六帖が寝室でいいか」
お兄ちゃんの言葉に異論はなかった。私たち兄妹はこの歳までずっとひとつの部屋に仕切りもなく寝起きしていたから何ともないし、万が一に備えて傍で寝ていた方が都合がいい。一人一部屋はもうちょっと先までお預けだ。
「なあ、燈子。これ見ろよ」
四畳半の部屋には押入れがあって、その引き戸を開けたお兄ちゃんが興奮気味に私を呼んだ。ひょいと覗き込み、一拍考える。
「……椅子だね?」
思わず語尾が上がったのは、それが一人掛けソファと呼べる程ゆったりしたサイズだけれど、見たことのない姿だったからだ。