予想もしていなかった言葉に、腰を抜かしそうになる。このまま廊下に倒れてしまいそうなほどだ。しかし、次の母さんの言葉で倒れてはいられなくなった。
「そうだ。正直な子にはご褒美をあげなくちゃ。プリン、二つ食べて良いわよ」
「本当!」
二つも食べていいなんて。前の母さんでは絶対にありえなかったことだ。
「プリンを食べる前に手を洗うのよ」
返事もそこそこに、駆け足で台所へと向かった。
僕の両親が優しくなってから、数日が経過した。
テストで悪い点をとっても叱られない。嫌いな食べ物は残しても良い。そればかりか、ハンバーグが食べたいと言えばハンバーグを作ってくれたり、休日に遊園地に行きたいと言えば家族三人で遊びにも行けた。どんなわがままでも笑顔で聞いてくれる。
そんな優しい両親に、つい気が緩んでしまったかもしれない。
友達と遊ぶのに夢中で、門限の五時を過ぎてしまった。友達に別れを告げて、駆け足で家に向かう。
息を切らして玄関に飛び込むと、父さんが驚いた表情で顔を出した。
「ただいま」
「おかえり。どうした? そんなに急いで」
「門限過ぎていたから、走って帰ってきた」
「そんなに慌てて帰ってこなくても。好きなだけ遊んできて、よかったんだぞ」
「え?」
母さんも顔を出したが「喉乾いたでしょ。飲み物を持ってくるわね」とすぐに台所に向かった。
門限を過ぎても怒られない。
それは、ほっとすると同時に寂しさを感じさせた。
前の父さんだったら、雷を落としていたはずだ。そして、母さんも一緒となり数十分間の説教が始まる。もちろん、怒られるのは嫌いだ。だから、怒られなかったことは素直に嬉しい。
だけど、両親が怒るのは僕を心配したからこそ。いつも説教の時に、「遅いと心配するだろ。もしも、コウスケに何かあったらどうするんだ」と怒鳴られていた。
確かに僕の両親は厳しかった。でも、心の中は僕への思いでいっぱいだったんだ。
そんな両親を僕は嫌っていた。そして、サンタさんにお願いして、優しい両親と変えてもらった。
今だからわかる。なんて馬鹿なことをしたんだ、と。
僕の両親を返してほしい。もう遅いかもしれないけど、もう一度サンタさんにお願いしよう。
「あれ? ジュースは飲まないの?」