6月期優秀作品
『家族チェンジ』九
朝起きたら、家族が変わっていた。
頭が少し寂しくなった父さんにはふさふさの黒髪が生えており、小皺が目立っていた母さんの肌はつるつるしている。毎日、育毛剤や美肌パックを使っていた努力がようやく出てきたらしい。
……うん。絶対、違うね。
納得するために適当な理由を考えてみたが、どう考えてもおかしい。
見た目だけが変わっているならともかく、父さんも母さんも別人になっているからだ。
確か二人とも四十代のはず。誕生日の蝋燭を四十本にしようか、と冗談で話した記憶がある。しかし、目の前の二人は、どう見ても二十代。歳の離れたお兄ちゃんとお姉ちゃんって感じだ。
小学生の僕でも、両親じゃないことくらいわかってしまう。
だったら、誰?
もしかして、泥棒? でも、泥棒が僕の家でゆったりと朝食を食べるかな。それも、僕が起きているのに。もしも泥棒だったら、慌てて逃げると思う。
混乱する頭で考えていると、男の人が笑顔を向けた。
「コウスケ。起きたのか。おはよう」
僕の名前を知っている? 僕の知っている人かな。ますますわからなくなってきた。
だから、僕は恐る恐る尋ねてみる。
「あの……誰ですか?」
「あらあら。まだ寝ぼけているの? 父さんの顔を忘れるなんて」
男の人の代わりに女の人が微笑みながら答える。
「父さん? だったら――」
「どうやら、母さんの顔も忘れたようだな」
僕の視線を察して、男の人が朗らかに笑った。
「母さん? でも、僕の母さんはこんなに若くないし」
「あら? 若く見えるって? 嬉しいことを言うようになったのね」
そういう意味で言ったんじゃないんだけど。
「おぉ、コウスケもお世辞を言うようになったのか」
「ちょっと、あなた。お世辞って何よ。コウスケは本当のことを言っただけよ。ねぇ、コウスケ」
同意を求められて、つい頷いてしまう。
女の人は「ほらね」と満足げな表情を男の人に向けた。男の人は「そういうことにしておくか」と苦笑を浮かべる。
「コウスケ。ぼぅと立ってないで座ったらどうだ。朝飯も食べるだろ?」
知らない人の言う通りにして良いかどうか少し迷ったが、くぅぅと腹が減る音に促されて椅子に座る。テーブルの上には、美味しそうな朝食が用意されていた。
どうやら、男の人は先に食べ終えていたようだ。仕事に行くのだろうか、スーツを着ている。
「いただきます」