ぱくりと一口。おいしい。もう一口、と箸が進んでいく。しかし、サラダに手を伸ばした時、動きが止まった。僕の嫌いなトマトがある。どろっとした食感、青臭い匂い。思い出しただけで、ぶるっと体が震えた。
食べなきゃいけないんだろうな。でも、食べたくないよぉ。
ぷるぷると震える手でトマトを掴んで止まっていると、父さんが聞いてきた。
「もしかして、トマトが嫌いか? だったら、残していいんだぞ」
男の人の言葉に女の人も僕の様子に気づいた。
「ごめんね。トマトが嫌いだって忘れていたの。ちょっと待っててね」
そう言うと、女の人がトマトを箸で摘んで取り除いてくれた。
もしも母さんだったら、食べ物を残すなって怒られていたところだ。父さんも母さんに同調して、僕を助けるはずがない。二人とも厳しすぎるんだ。
それに比べてこの人たちは、なんて優しいんだろう。
本当に僕の両親だったらいいのに、と望んでから、はたと思い出す。
そういえば、去年のクリスマスに優しい両親をサンタさんに願っていたんだっけ。もしかしたら、今頃になってサンタさんが僕の願いを聞いてくれたのかも。
絶対にそうだ。それだと納得できる。
僕が望んでいた優しい父さんと母さん。これから、ずっと一緒にいられるんだ。
「何か嬉しいことでもあったのか?」
「ううん。なんでもない」
顔がにやけていたようだ。声も弾んでしまう。
「父さん。母さん」
ありがとう、と言いかけて口を閉じる。父さんも母さんも自分が変わっていることに気づいていない。それなのに、お礼を言っても混乱させるだけだ。
「えっと。なんでもない」
「まだ寝ぼけているのかしら?」
「そうみたい」
母さんの笑顔につられて、僕も微笑む。
感謝を伝える相手は両親じゃない。だから、せめて心の中でお礼を言うことにしよう。
優しい父さんと母さんに変えてくれて、ありがとう。サンタさん。
はぁと深いため息が漏れる。