名前のよばれた天野彰一は、小さくガッツポーズをしたように見え、相手が少しでも喜んでくれているという現実に、もしかしてこの人と家族になるのかもしれない、とうっすら思った。
美樹と恵美は気を利かせてか先に帰ると声をかけてくれ、天野彰一は律儀にすみません、と挨拶をしていた。私は、なんだかよく分からないまま、あぁうんわかった、と美樹と恵美に手を振った。
「いいお友達ですね」
「え?」
地面から少し浮いているような落ち着きの無くなった私に、天野彰一はそう言って笑いかけた。二人でビルを出ると、湿気のこもった空気がもわんと身体を包んだ。
「いつもはもう1人いて4人で会うことが多くて、美樹、あの、少し派手めだった子が今日は誘ってくれたんです」
「そうなんですかぁ。じゃあ今日はその美樹さんのおかげですね」
おかげですね、という言葉にうまく反応できず、天野彰一を見上げた。
「今日出逢えたのは美樹さんのおかげですね」
恥ずかし気もなくそう言い換えた天野彰一に、そうですね、と私は答えた。
「もしよければ、パスタでも食べませんか。お話したいし、ごちそうしますよ、安いけど」
安いけど、と笑って、こちらに気を遣わせないようにしているのが分かり、私は、じゃあ、と隣を歩いた。
チェーン店ながら生パスタを提供するお店で、私と天野彰一は向き合って座り、仕事のこと、仕事仲間のこと、好きな食べ物や苦手なもの、よく遊びにいくところ、よく服を買うお店など、いろいろなことを話した。
私と天野彰一は金銭感覚が似ていた。少し高くて気に入ったものと安くていくつも買ってしまうものがあるのが同じで、会社員らしい服装が実は苦手なこと、車に乗るよりも自転車のほうが好きなこと、猫より犬派、インコも好き、そのうちに、結婚式は家族だけで海の綺麗なところがいい、子供はできたらほしいかな、とそんなことまで話をした。
私はこれが恋なのだ、と感じ、天野彰一に駅まで送ってもらって手を振ろうとした帰り際、家族になりませんか、と迷いのない目で言われた。
私は家族に恥ずかしながら婚活パーティーに参加して天野彰一に出逢ったことを告げた。両親はやっとか、と喜び、弟は大丈夫かよぉと言いながらも嬉しそうにしてくれた。
美樹と恵美は、自分たちの好みじゃないから余裕で祝える、と笑い、紗英は会ってみたい、と言ってくれた。
天野彰一とは毎日メッセージのやりとりをし、朝起きたらおはよう、寝る前におやすみを送り合い、おやすみのあとも電話をして気づいたら朝方という日も少なくなかった。