「やってみたら案外簡単よぉ。あんたも、なにか新しいことやってみたらいいのに」
あー、と言いかけてやめた。婚活とか? って言ったら喜ぶんだろうか。
「おまえ、いい人いないのか」
ソファで寝ているはずの父の声がして、寝たふりか、と思いながら、いないよー残念でしたー、と返事をすると、あとに続けて何か言うでもなく、また寝たふりをしたようだった。
もう寝るわよ、と言う母に、私もシャワー浴びて寝るし、と言ってリビングを出ると、佑司がニヤニヤしながら立っていた。
「ほらー、父さんも母さんもあんま言わないだけでさー超心配してるじゃん。俺は男だからいいけど、姉ちゃんが一人で年取ってったら心配なんだよなぁ分かるわぁ。こないだおばさんが遊びに来たときもさ、姉ちゃんの話題になったらしくて、結婚なんて意識しないとできるもんじゃないんだから、もう親がちゃんと言わなきゃだめよとかなんとか母さんに煽ってたよ」
はいはい、もーうるさいなー、私シャワー浴びてねるから、と気にしてないふうに言って洗面所に入った。
あーあ、と小声で誰にともなく言い、シャツを脱ぎながら鏡を見ると、どう見てももう若い女の子じゃない見た目に、ちょっと弱気になった。
そういえば今の派遣会社に入ったのも、産休の人の穴埋めだったのを思い出した。会ったこともないけれど、たしか4つか5つ年下の女の子が前任者だったとちらっと聞いた。
その子が戻ってきたら、私は今のところでもいらなくなるんだろうか。いや、そもそもあそこにいたいわけでもないし、と自分で自分を否定かも擁護かも分からないような脳内やりとりをする。
シャワーはなかなか適温にならず、冷たい水を足の指で感じながら、タイルに水が細く流れて排水溝に向かうのを見つめて、ぼんやりとあたたまるのを待った。
「由香と一緒に婚活とかはじめてじゃない? マジ来てくれて嬉しいー」
新宿駅で待ち合わせた美樹が声を大にした。婚活ワード大声やめて、と恵美が苦笑いする。
苦手な人混みを2人とはぐれないように歩くと、平日の夕方にこんなにもしっかりとした足取りの女性が多いのかと不安になってくる。
ネイビーのジャケットの女性は小走りに駅前の横断歩道に向かい、隣を通りすぎた女性は、なるほどなるほど、ではシステムのものに指示をしておきます、とハキハキと話しながら歩いている。
すぐそばの美樹もストッキングにヒールだし、恵美は控えめだがフリルのブルーのブラウスがOLさんらしい。とても私はこんなふうになれないなぁと数年前に言っていたのは紗英だった気がする。紗英は、冬はブーツ、夏はビリケンサンダル、それ以外はスニーカー、パンプスを履くなら3センチ以内のヒール、と前に言っていた。
髪も好きな色に染めるし、Tシャツで仕事もする、と言い切って、今でもその通りにしている。私は、長らくクローゼットにしまいっぱなしにしていたワンピースを着ている。2年前よりも似合わなくなっている気がして、今も気が気じゃない。
「今日紗英は?」