「えーどうしよっかなぁ、どっちかっていうと、婚活パーティーみたいなほうが気になるんだけど」
そんなに婚活したかったなんて知らなかった、と私が紗英に言うと、いいじゃんいいじゃん、と美樹が盛り上がり、じゃあ探しとくからみんなで行こうよー、と早速にスマホを取り出して日取りを決めようとする。
「えぇ、私はいいよ〜」
「由香そういうのいつも来ないじゃん、1回見てみたら楽しいかもしれないじゃん?」
美樹が言うと、だからみんなで行けばよくない? ね? と恵美が言い、日にちとどのパーティーにするかメッセージするからちゃんと返事ちょうだい、と念を押され、んー、と曖昧な返事をした。
行かないとも言えないまま4人でいつも通り綺麗に割り勘にして、次の幹事はじゅんぐりだからちょうど美樹ね、と確認して、みんなと別れて、私だけ駅をこえてとぼとぼと帰り路に向かった。
五反田の明らかに風俗というところから、気の抜けたおじさんが出て来たかと思えば、その隣を、髪を同じ色に染めた若いカップルがいちゃつきながら歩いている。
横断歩道を渡ると、クールビズさいこおぉぉぉ〜、と叫びながら、酔っぱらった会社員がネクタイをヌンチャクのように振り回している。
世の中こんなに人がいるのに、ほとんどの人を私は知らないんだなぁ、と思わず溜め息がでた。
目黒川にかかる道を歩くと、ちょっと生温い風を感じて、急に不安になる。なんで不安や恐怖は気づいたときにはもうその中にいるんだろう、とまた酔った脳で思いながら、川の表面に漂うシワを見つめてとぼとぼと歩いた。
玄関を開けると、ちょうどトイレから出て来たらしい佑司が、嫌そうな顔をして私を見た。
「ただいまぁ、なにその顔?」
「べつにフツーだけど。っつーか、姉ちゃん何帰ってきてんの?」
は? という顔をすると、佑司がトイレのドアを音をたてて閉めた。
「フツー金曜の夜に飲んで来るみたいなときは泊まりじゃね? もう35とかでしょ、やばくない?」
は? と今度は声に出して佑司を睨む。
「俺やだよー、自分が結婚するときに結婚式に子供もいないくたびれた40の姉が来るとか」
はぁ? 私は舌打ちをして佑司を無視して通った。
「ただいまぁ」
私がリビングに入ると、父はソファで寝ていて、母は寝る前のコーヒーを飲んでスマホをいじっていた。
「お母さん起きてたんだ」
「ねぇ、これおもしろいの、動画」
「いつの間にそんなにスマホ使えるようになったの」