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『タンスのにおい』藤雅みづき


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「いいけど、何かいるものでもあるの?」
「うん、とにかく消臭剤がほしい」
 私にできることは、そんな小さな抵抗だけだった。

 リビングに仏壇が置かれるようになったのは納骨が終わって、やっとおばあちゃん関係の行事が落ち着いた頃だった。
 わが家にやってきた仏壇はお母さんがお父さんと結婚する時に買ってもらったタンスよりは少しだけ小さくて、黒いくすんだ色をしていた。「レトロ」だとかそういった最近の言葉であらわすことのできるレベルを通り越した古さで、両開きの扉は少し力を入れたら簡単に取れてしまいそうだ。
 置いてもいい方角などがあるらしく、そのせいでこれまで真ん中に置かれていたお気に入りのソファは壁際に追いやられた。そこに座ってテレビを見るのが好きだったのに、すっかりテレビが見づらくなってしまった。
 それに仏壇がいつも目に入るのも、線香のにおいがするのも気に入らない。
 消臭剤のおかげでマシだけど、忌明けがすんで学校に行った時には、友達に「線香臭くない?」と言われるんじゃないかと不安だったし、今でも不安だったりする。
 線香のにおいは嫌いだ。
 悲しい気持ちになるし、服や髪についたにおいは可哀そうな人だと、そう思われてしまいそうで余計に悲しくなってしまうから。
 だから、なるべく仏壇に近づかないようにしていたし、お父さんやお母さんが仏壇で何かをしていても、ずっと知らないふりをしていた。
 お父さんは何も言わないけど、お母さんには「気持ちはわかるけど、おばあちゃんが可哀そう」と言われた。だけど、ほとんどおばあちゃんのことを覚えていない私はどうすればいいのかわからなかったし、リビングにある仏壇はチグハグで不自然なものにしか見えないし、まるで他人がずっとそこに居座って、私達を見ているみたいな感覚だった。
 改めて相談すると言っておきながら、お父さんの兄弟が仏壇について連絡してくることはない。どうせそうだろうと思っていたけどやっぱり腹が立った。
 これがまだ少しの間だけなら我慢できた。
 だけど、これから先も、これがずっと続いていく。
 そんな憂鬱を洗い流そうとお気に入りの入浴剤を入れてお風呂に入ってみても、お風呂上りに見かける仏壇のせいで上がった気分も台無しだった。
 そうして気づけば、おばあちゃんが亡くなって一ヶ月がたっていた。
「今日はおばあちゃんが亡くなって一ヶ月の日だから、今日くらいは手を合わせてあげて」
 いつものようにリビングを後にしようとした私はお母さんに呼び止められてしまって、仕方なく仏壇の前に座っているお父さんの隣に座った。

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