遺影の中にいるおばあちゃんは、何がそんなに楽しいのか。
こっちの気持ちも知らないくせにと、思わず言いたくなるくらいにいい笑顔だ。
「ねぇ、この写真を選んだのって、お父さんだよね」
「そうだよ。これが一番いい写真だと思ってね」
お父さんは懐かしそうに目を細めながら、写真に写るおばあちゃんを見ていた。
「この写真は、まだ小さかったお前と一緒に撮った写真なんだ」
「私と?」
「あぁ、まだ小さかったお前を膝の上に抱いてね。覚えてないかもしれないけど」
お父さんに言われて、私は写真に目を向けた。
「ここに大切に入っていたんだよ」
そう言ってお父さんが仏壇の引き出しを開けると、そこには古いアルバムが入っていた。
「綺麗……」
「アルバムの表紙は、おばあちゃんが昔の着物で作ってくれたのよ」
表紙をめくった最初のページには、幼い私を膝の上に抱いたおばあちゃんの写真が貼られていた。
よみがえってきたのは頭を撫でてくれた優しい手に、どこか懐かしいタンスのにおい。
そうか、あのにおいは……。
「私の好きなタンスのにおいは、おばあちゃんの服のにおいだったんだね……」
自然にこぼれてきた涙を拭いた制服から漂ってきたのは、懐かしくて少しツンとした防虫剤のにおいだった。
「おばあちゃん……」
仏壇に向かってそう呼びかけると、遺影の中のおばあちゃんが笑ったような気がした。