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『タンスのにおい』藤雅みづき


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 そんな家が勝手に浸食されようとしている。そんなのは絶対に嫌だった。
 委員長やリレーの走者決めみたいに、じゃんけんで負けたなら仕方ない。
 でも、お父さんはじゃんけんにすら参加させてもらえない。
 不公平な多数決で嫌なことを押し付けられているだけだ。
 お母さんも心配そうにお父さんを見ているし、他の親戚は自分が巻き込まれないように、何もしないで結論が出るのを、ただ待っている。
「まぁ、どうするにしても実家は引き払うんじゃ。あとのことは改めて考えたらいい。とりあえず少しの間だけでも預かっといてくれんか?」
「いや、でも、うちもそんな広くは……」
「一番可愛がられてたのは兄さんだ。おふくろも喜んでくれるだろう」
「……預かるだけなら」
 優しくて気の弱いところのあるお父さんは兄弟に言いくるめられて、結局仏壇を引き取ることになった。引き取ると言えば、いい言い方かもしれないけれど、面倒事を押し付けられたのと変わりはない。少なくとも私はそう思う。

 帰りの車の中、後部席からバックミラーを見ると、少し疲れた顔をしたお母さんはまともに何も言い返せなかったお父さんを怒っていた。
「あの人達はいつもそう。勝手な時だけ、お父さんを頼って、全部押し付けて」
「ごめん……言い返そうとは思ったんだけど、母さんのことを言われると……」
 お父さんが小さく鼻をすする音が聞こえた。
(そうだ。お父さんのお母さん、死んじゃったんだ)
 そんな当たり前のことに、今になって気づく。
 私にとって、お父さんはお父さんで、お母さんはお母さんで……。
 だけど、そんな二人にもお父さんやお母さんがいて、二人はその人達の子供だったんだ。
「まぁ、でもお義母さんにはよくしてもらったから、これも仕方ないかもね」
「ありがとう……」
「帰りにファミレスに寄るの、忘れないでね」
 仏壇が家に置かれることをお母さんは受け入れたみたいだけど、私は受け入れることはできなかった。
(嫌だなぁ……)
 受け入れられないのが私だけになったのも、これからずっと家の中に漂うことになる線香とよくわからないものが入り混じった古臭いにおいも。とにかく全部が嫌だった。
「ねぇ、ファミレスの前に、ドラッグストア寄って」

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