残されたのは私達と棺の中にいるおばあちゃんだけで、お父さんは何度も何度も棺の中のおばあちゃんに話しかけていて、時折お母さんがお父さんを慰めていた。
そんな二人を見ていると、私だけ寝ることはできなかった。結局、その日は皆寝ずに、お風呂を借りた後はホールの隅に作られた和室のスペースで、ずっと起きていた。
朝方、会場近くのコンビニでお父さんが朝ご飯を買ってきてくれた。
おにぎりにサンドイッチ、菓子パンまである。
私はその中からツナマヨのおにぎりを、お母さんはたまごのサンドイッチを選んだ。
向かいに座るお父さんは残っていたメロンパンをゆっくりと口に運んでいた。
(こんな時でもお腹は減るんだ)
そう思いながら、おにぎりを食べ終えた頃、お父さんは半分残っているメロンパンを置いたかと思うと、私とお母さんに向かって頭を下げた。
「ありがとう……」
「どうしたの、急に。まだ全部終わってないんだから、気を抜くのは早いでしょう」
お母さんは備え付けの急須で入れた緑茶をお父さんに差し出した。お父さんはもう一度「ありがとう」と言うと、緑茶の入った茶碗を受け取る。
そのやりとりを見ていた私は、なんとなくだけど一緒に来てよかったと、そう思った。
お葬式も無事に終わって、私はホール内にある部屋で両親や親戚達と料理を囲っていた。最近では初七日だとか何だとか、難しそうな名前の行事を一緒に終わらせるのも珍しくないらしい。
よくわからないけど、ただ知らない人と一緒に食事をすることがこんなに面倒くさくてダルいとは思わなかった。
どこの誰だかよくわからない人達から「今、高校生?」「いくつになったの?」と矢継ぎ早に質問され、嫌でも愛想よく答えなければならない。しかも、やたらと「どこの高校に通っているの」と聞かれて、まるで値踏みされているみたいで正直気分が悪い。
ようやく私への興味をなくしてくれたことにほっとしながら、用意された料理に箸を伸ばす。高い料亭みたいと内心で浮かれていたのは料理を口にするまでのこと。
(ファミレスのハンバーグが食べたい……)
こんな時に不謹慎かもしれないけれど、口に出していないから許してほしい。
白い制服にソースがとんだら大変だしと言い聞かせて、もそもそと箸を進めていると隣に座るお母さんが「晩ごはん、ファミレスで食べて帰ろう」とこっそり言ってくれた。