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『タンスのにおい』藤雅みづき


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「お帰り、お父さん」
「あぁ、ただいま」
 そう返すお父さんは朝に見たスーツからお母さんの用意していた喪服に着替え終わっていたけど、正直スーツとどこがどう違うのかなんてよくわからない。
 唯一違うところと言えば、ネクタイの色くらいだ。
「悪いな、バタバタさせて」
「いいのよ。それより運転は大丈夫?」
「大丈夫だ」
 そして私達は家を出て、おばあちゃんの家に向かった。
 おばあちゃんの家までは高速道路を通れば二時間ほどで着く。高速道路に入るまでが混んでいないか、お母さんは心配していたけど平日のせいか。道が混むことはなく、すぐに高速道路に乗ることができた。
 車の中には滅多につけることのないラジオが流れている。
ラジオをつけたのはお父さんだった。
『さぁ、今日もはじまりました!』
 陽気なラジオDJの声に助手席に座るお母さんはチャンネルを変えようとしたけれど、お父さんは「そのままでいいよ」とだけ言うと、ハンドルを握り直した。
 後部座席から外を見れば、薄暗くなってきた空と道路脇に立つガードレールが後ろに向かって延々と流れていく。その風景も車がトンネルに入ると消えてしまった。
『先週まで連続ランクインを果たしていたあの曲は、惜しくも今週ランキング外に』
 見慣れた景色を追い越して進んでいく車、ランキングから外れてしまったヒット曲。
 どちらもただまっすぐに進んで、流れているだけなのに。
 なのに、どうして置いていかれるものが、そこにはあるのだろう。
 それでもラジオからランキングを読み上げる声は続いていた。

 私にとっては、生まれてはじめての葬式だった。
 どうなるかと思ったけれど、私が思っていた以上にあっけなく終わった気がした。
 祭壇の棺の中に眠っていたおばあちゃんと会うのは何年かぶりで「これが私のおばあちゃんなんだ」とそんな感想を抱いてしまった。けれど、ドラマなどでよく聞く「本当に眠っているだけのような顔」で少しほっとした。
 お通夜が終わってセレモニーホールに泊まったのは私達の家族だけだった。
 他の親戚はお通夜が終わると、足早に自分達の泊まるホテルに帰って行った。

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