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『タンスのにおい』藤雅みづき


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「親族はセレモニーホールにある部屋に泊まれるから、とりあえずパジャマがわりの部屋着と、あとは制服があればどうにかなるでしょう」
「制服って、どっちの?」
「学生なんだし、どっちでも大丈夫よ。いくら数時間で行ける距離だからって、高速が混んだら大変だし早く出ないといけないんだから、とにかく早く準備してね」
「わかった……」
 二階にある自分の部屋に行った私はとりあえず机の上で充電していた携帯を手にして、メッセージアプリを起動させると「明日休むから」と友達のグループにメッセージを送った。
 すぐに何人かから返事があったものの「なんで休むの?」というメッセージにどう答えていいかわからず、私はメッセージアプリを閉じるとクローゼットに向かった。
 扉を開け、どこか懐かしさを感じるにおいを吸い込むと、少しだけ気持ちが落ち着いたような気がした。
 クローゼットに並ぶ服をかき分けて、クリーニング屋のロゴの入ったビニールが掛かったままのハンガーを手に取る。丁寧にビニールを外していくと、その下からは探していた夏服があらわれる。プリーツの入った紺色のチェックのスカートは変わらないが、その上に掛かっているのは白い半袖に赤いリボンだ。
 気に入ってはいるものの、正直かなり目立つとは思う。
(お母さんさんは学生だし、別にどっちでもいいって言ってたけど……)
 こういう時は皆どうしているのか。メールか何かで聞いてみようとしてやめた。
 こんなの、皆知らないに決まってる。
 葬式に出た話など友達から聞いたことなんて一度もない。
 自分が一号かと思うと、気が重い。
 悩みはしたものの、携帯で見た週間天気予報でも蒸し暑い日が続くと言っていたため、葬儀へは白い半袖のブラウスを着ていくことにした。
 黒づくめの中に一人だけ白い自分がいることを想像すると落ち着かなくなるが、わざわざ暑くなるとわかっていて冬服のブレザーを着る気にはとてもなれなかった。
 夏服に着替え終わった私は姿見の前に立つ。
(そう言えば、おばあちゃんが学生の頃は、セーラー服が普通だったんだっけ……)
 それは高校入学のお祝いをもらったお礼の電話をした時におばあちゃんから聞いた話だ。
「変なの。今になって、そんなことを思い出すなんて」
「準備できた? お父さん、帰って来たわよ」
「今、行く」
 学生鞄から教科書だけを抜いて、着替え終えたばかりで丸まったままの部屋着に、携帯と携帯の充電器を鞄に放り込んで部屋を後にした。

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