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『さびしいサラダ』もりまりこ


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 ぎざぎざのミブナ。ちぎるちぎる。さっきから5分ぐらい同じことをしていた時、不思議なデジャヴュを感じていたことが、なんだったのかわからなくてとても気持ち悪かったのに、ブースの外から<魚真>の鮮魚の潮を纏った匂いが運ばれてきたとき、あぁと腑に落ちた。
 昼休みにいた屋上の映像が浮かび上がる。潮の匂いのなかに透がまぎれこんだせつな、耳になじんでいたなにかをちぎる音がそっくり入り込んできた。
 栞の指が、ミブナ以外の何かをちぎってる気持ちに駆られた。
 ブースから出て、幾分笑顔の分量を多めにしてショーケースの内側に立つと、ケースの前で行ったり来たりしているおばさんがいた。
 あ、<さびしいおばさん>だって栞は気づいた。
<さびしいおばさん>は、栞が勝手につけた名称で、彼女を見かけるのはこれで2度目だった。
 おばさん、いつだったか、フルーツバーのバナナシェイクのストロー付きのカップを持ったまま、屋上のベンチに座っていたことがあった。
 栞はその時透とその屋上で待ち合わせしていて、遅刻してくるのがあたりまえの彼をそこで待っていた。その時初めてみかけたのがそのおばさんだった。
 そんなに暑くもない季節だったのに、彼女はそのシェイクを一気に飲み干すと溜め息とともにさびしいわってひとこと漏らしたのだ。
 あきらかに栞にではなく、そこらあたりの宙に放たれた言葉だった。栞は、聞いちゃいけない言葉を聞いたみたいで、そっといま耳に注がれてしまったこの言葉をこころの中にしまい込んだ。

 そうねぇ、サラダね、いつもはお惣菜だしねぇ、こんなにぎやかな色は、敷居が高いっていうか、でも美味しそうねと独り言が聞こえる。ひとしきり言い終わって顔を上げると栞をみて、「おねえさん、ここの中でどれがいちばんカロリーとか低いわけ? いちばん体脂肪減らすのってどれ?」って訊ねてきた。
 栞は、声が届きやすいように一歩前に踏み出す。
「いらっしゃいませ。えぇと、カロリーはこのプレートに表示してございますが、そうですね、ここに出てるものですといちばん低いのは、ベジルドスペシャルの6種類の野菜にキャロット、失礼いたしましたニンジンのドレッシングをかけてございますのが、いちばん低くなっておりますが」
 栞と目を合わさずに、ショーケースを食い入るように見入る。
「あぁ、このオレンヂ色は人参なのね。あ、ドレッシングはやっぱり油使ってるんでしょ」
「えぇ、でもご安心くださいませ。こちらは体脂肪をつきにくくするオイルを使用してございます」
「あら、ほんと。へぇ。最近ここんとこ太っちゃって」

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