「じゃあ、何だ?」
畳み掛けて質問してくる西村に、「いや、トマト……」と、俺は思わず言ってしまった。
「トマト!? お前もう酔っ払ってるみたいだな。言ってることが不明だぞ。まあいい、それでだ……」
西村は俺の発言をスルーし、自分の話したい話に戻した。変なツッコミを入れられなくて良かったと少しホッとした。
――心配の押し付け……
西村の言葉が、俺の心に引っかかっていた。
その後、西村と一通り話し、店を出た。店の前で、乗る電車が違う西村と別れると、俺は一人駅に向かった。
華と同じ歳の西村の娘が結婚し、それは良い事だと西村が宣言したことが、俺の心を惑わせていた。
――防虫時計を華にプレゼントしたことは本当に正しかったのか?
俺の中に、一抹の疑問が芽生え始めていた。
悶々と考えながら、駅に向かっていたが、ふと周り眺めた俺は、華ぐらいの年頃のカップルが仲睦まじく腕を組んで歩いているのに気付いた。足を止め、改めて周りを見渡すと、新宿という繁華街と言うこともあって、同じようなカップルが複数、楽しそうに歩いているのが見えた。
そのとき俺の脳裏に、一人で歩いている仕事帰りの華の姿が浮かび上がった。
――華はいつも一人で歩いているのか……もしかしたら、今後もずっと……
俺は、いても立ってもいられず、駅まで走り始めた。
最寄り駅に着くと、俺は、いつもより早足で、家に急いだ。何か俺はとんでもなく間違った事をしていたような気がしていた。
――華を心配する余り、華の可能性を奪ってなかったか。
そんな事を考えていた。いつも見慣れた家路への景色が、何かよそよそしく、俺を責めているようだった。早く家に着かなければ、夜の闇に押し潰されそうな気がした。
息を切らしながら、家の玄関を開けると、ついさっき家に着いたと思われる華が、カバンを抱えたまま、廊下の先にあるリビングの入り口で、結衣と何か話していた。
俺が帰ってきた事に二人は気づき、俺の方を見て、口々に「お帰り!」と声を上げた。
息を切らしている俺を見て、「お父さん、どうしたの?」と華が続けた。結衣も怪訝そうな表情で、こちらを見ている。俺は、息を整えると、廊下に跪いた。二人が驚きのあまり、「えっ!?」と声を上げるのが聞こえた。俺は、そんな二人に構わず、頭を廊下に擦り付けて言った。
「華、ごめん!お父さんはとんでもない間違いをしてしまった……」
俺の突然の不可解な行動に、「お父さん、酔ってるの?」と、結衣が声を上げる。