「そう言えば、結婚するって言ってたけど、もう結婚式なのね。西村さん、喜んでたんじゃない?」と、結衣が興奮気味に声をあげる。
「西村、頭ではめでたいってわかってても、心では納得出来ないって、言ってたよ」
俺は、眉根を寄せ、渋そうな表情で言った。困ったもんだという雰囲気を出し、俺は西村のような狭量な男じゃないとアピールする。
「そんなものなのかしらね、男親って。あなただって、きっとそうよ」
俺のアピールと裏腹に、簡単に西村と同類扱いされた俺は、ちょっと当惑ぎみに、「俺はそんなことないさ」と何とか反論した。
結衣は俺に軽く視線を送り、――無理しちゃて、という感じで苦笑する。
結衣は俺の気持ちをお見通しかもしれないなと、改めて畏れいる。
俺はこれ以上、心の内を見透かされたくない思いで、「華は彼氏できたのか?」と話題を変えた。
「さあね、華に聞いてみたら?」と、結衣は急に素っ気なく答える。
「そんなこと、俺が聞けるかよ」
「最近、そういう事、聞いてないの」
「なんかの折に、聞いてみろよ」と、俺は結衣を促したが、結衣は何も答えなかった。
いつもより曖昧な結衣の答えと、その話題を避けるような対応に、俺は若干不安になった。
――家族で娘の彼氏の存在を知らないのは父親だけだからな。
昨日の西村の言葉が蘇る。
だが、華に彼氏ができるはずはないのだ。
華は、この土日は友達と旅行にいったらしく家にはいなかった。
翌日の日曜日、早朝から家庭菜園に出向いた。マンション近くに安く借りられる家庭菜園用の農地があり、数年前から土いじりを始めた。7月上旬ともなると、早朝に作業をやってしまわないと、辛いことになる。
今は、ナスとミニトマトを育てているが、この時期注意すべきは、アブラムシだ。この小さな害虫は侮れない。初期に駆除しないと、大量発生し、作物の生育を阻害する。俺は、茎や葉を丁寧に調べていく。
「ああっ、やっぱり、いやがったか」
茎を這う数匹のアブラムシを見つけると、殺虫剤を噴射した。