見つけた事も、探していたという事も、小学生の俺には衝撃だったのだ。
親父の背中から下ろされた知美は、えっぐえっぐと啜り泣いていた。
泣いている知美の背中を押して、促すように親父は歩かせる。二人が向かって行ったのは、麻美のいる女の子の集団だ。
親父が何か麻美たちに言っている。見た事のない優しい雰囲気だ。知美は泣きながら大きく頷いている。
そして知美は、麻美たちの輪に入っていった。
親父も、他の大人たちも、もう何も言わなかった。小言も何も。何もなかったように解散していく。
ただそれを呆然と見ているしかなかった、俺は。
落ち着いた頃に洋介が知美に聞くと。
麻美たちグループに虐められたらしい、あの日に。耐えかねて学校から逃げ出し、あの秘密の場所にずっと隠れていた。
それを親父が見つけた。
何故か親父は麻美たちに虐められていた事を知っていたらしい。知美は誰にも言えずにいたのに。
虐めの事、秘密の場所の事。
どうして親父は知っていたのか。
暫く間、その不可解な謎は俺の頭から離れなかった。まして、直に親父に聞く勇気などある筈もなかった。
麻美には偶然と言った。娘の迎えもそうだ。だが今日の休みは必然だった。
昨晩から病院で親父が危篤状態。もう駄目だと、大事をとって仕事を休んだ。
それは正解だった。
その晩に親父は息を引き取った。
大往生とも言える歳。家族たちに見守られながら。
最期の言葉でもあると思ったが。
何もなかった。
らしいと言えばらしい最期だ。何か期待していた俺は、間違いだったのか。
蜜の濃い花の香り。そう表現していい線香の匂い。煙が部屋の上方で漂い、雲が空から手が届くところまで下りてきたようだった。
坊さんが唸るような読経を読む声も、一種自然現象の一部の様で、線香の雲の遠く向こうから低く響く雷鳴だ。