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『昇る煙』洗い熊Q


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 そんな時代だった。その中で起きた出来事だった。

 昼過ぎぐらいだったろうか。下校時間などまだまだ先のことだ。
 あの知美が居なくなっていた。唐突に、忽然と。誰も知らず。
 気も身体も弱い知美の事だ。体調が悪くなって途中で帰ったんだろうと同級生たちは思っていた。
 だが授業中にも、下校時間を迎えていた時もだ。学校の先生たちは見るからに何か騒いでいた。後から知れば、学校から知美の自宅に連絡した時、家には帰っていなかったらしい。
 始めは知美の両親、先生数人で近辺を探し。事の事態が深刻になってゆく程、近隣の保護者たちも協力しての捜索になっていった。
 ――誘拐。そのような事が親たちの間で囁かれるようになる。
 そうなると近辺の子供たちには、遠出をしないようにと勧告が出る程に。
 夕方を迎え始めて、明らかに空に暗がりが見える。夕日の茜色が深みを増していた。
 近所で親たちや先生が、道端で話し合っている。それを親友の洋介と遠巻きに見ていた。
 他にも心配してだろうか、麻美の女の子グループが数人で固まって、事の成り行きを観察しているようだった。
 範囲を広めて。警察に通報を――大人たちから、そんな会話が聞こえてきていた。
 だが子供たちは。特に知美と同じクラスだった俺と洋介には、彼女の居場所に心当たりがあったのだ。
「なあ、浩介。たぶん知美、あそこに隠れてんじゃねぇか?」と洋介が耳打ちするように言ってきた。
 俺は黙って頷いた。
 あそこ――同級生で数人、知美も含めてだ。俺たちの秘密の隠れ場。大きな用水路に暗渠からの穴から下へと落ち、滝となっている箇所。
 柵を乗り越え、水路の壁際に沿って降りると、周囲から覗えない場所がある。そこを俺たちは秘密基地にしていた。
 知美はそこを気に入っていた。隠れるならそこしかない。
 だが言えば秘密基地を暴露する事に。まして大人たちには危険だから近寄るなと言われていた場所。
 言うか言わないか、正直。もしかしたら、知美は別の場所にいるかも知れない。悩みながら大人たちを俺は見つめていた。
 ――親父も探しているのだろうか。ふと大人たちを見ながらそう思った。
 そんな事あるか。あの風変わりの親父が。まして他人の子供捜索など。そう思い直した時だ。
 誰かが、何かを見つけ声を上げていた。
 大人たちが指差す。反応して俺たちも示された先に振り返る。
 見えたのは、夕焼けの背景の中に揺れる人影。赤み帯びた縁取りにチラリ見えた顔は――親父だった。
 のそりのそりと歩く姿は、誰を背負っているようだ。こちらに近付くに連れ、それが親父の背中に顔を埋めている知美だとわかった。
 大人たちが思わず駆け寄ってゆく。囲まれた親父は大人たちに何か言っているようだった。
 俺は唖然とした。

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