『エレベーター』
木江恭
(『銀河鉄道の夜』)
配達員の音川は大きな荷物を携えて、高級マンションのエレベーターに乗り込む。途中で乗り合わせる奇妙な面々に戸惑いつつ上層階へ向かっていると、最後に乗ってきたのは高校時代の友人のテツだった。二人を乗せて、エレベーターはさらに上昇する。上へ上へ。
『小さな私の思い出』
加藤饅頭
(ヘルマン・ヘッセ『少年の日の思い出』)
ある夕暮れどき、私と客が思い出話を取り交わす。かたや少年の日の思い出、かたや小さな私の思い出。「少年の私」と「小さな私」をめぐる、二つのお話
『I am 救世主』
亀井ハル
(『桃太郎』)
ひきこもりの桃ちゃんはパパとママに反発しつつも,自分を高める為に日夜筋トレと動物たちとの共生に奮闘中!そんな中,耳障りな轟音がして目覚めると不気味なNEWWORLDが広がっていたのであった。
『窓辺の夫婦』
草間小鳥子
(『錦絵から出てきた女の人』)
都会で一人暮らしをはじめたぼくの部屋の窓に、夜になるとうつる女の影。姿は見えないのに、毎晩、毎晩、影だけが現れる。恋人には不気味がられ、いまいましく思っていたものの、影だけの彼女にぼくはすこしずつ心惹かれてゆく。そんなある日の夜ふけ過ぎ、誰かが部屋のドアを叩いた。
『夢みるピアノ』
草間小鳥子
(『ピアノ』)
時を超えて届いた旋律に呼ばれ、わたしは鍵盤に指をおろす。音楽会の花形であるピアノ奏者に選ばれたことで、同級生らと気まずくなってしまった主人公。放課後、ピアノの音色に誘われ屋敷の門をくぐると、見知らぬ少女、さくらと出会う。 満ち足りた時間、軽やかな演奏。これは現実? それとも……
『ミサキ・マサキ』
和織
(『ウィリアム・ウィルスン』『不思議の国のアリス』)
アリスが不思議の国の話をひけらかしたって、現実の世界では誰もそれを信じない。だから現実では、それは「夢だった」というのが本当なのだ。だから僕も、その本当を信じる。いくらあの、出てきたいときだけ出てきて、言いたいことだけ言って消える、身勝手なチシャ猫のことが脳裏に焼き付いていても、夢であれば、それは現実(ここ)にはいない筈だからだ。
『ギブ・アウェイ、パンティ』
枯木枕
(『幸福な王子』)
しがない大学生の「俺」は「朝木ちゃん」の使用済みパンティと下着姿のエロ写真を変態どもに売って日々をぼんやりと過ごす。しかし「俺」は下着を剥いで売ることに嫌悪感のようなものを抱き始めて……。
『金の缶、サイダーの缶』
笹田元町
(『金の斧、銀の斧』)
2016年、夏、水遊びする娘にふと重なる高校三年生の恋物語があった。どうにかしたら、あの子との時間をいつまでも続けることはできたのだろうか。こんなことを考えるのは、今がとても幸せだからだと思う。