鬱蒼と木々の生い茂る森の奥深くに、石造りの美しい城がありました。
その城は昔この国の王族たちが暮らしていましたが、王たちがより栄えた町へと移り住んだために長いことほったらかしにされていました。そこへ、どこからかやってきた野獣が住み着くようになったのです。
人々はその野獣を恐れ、誰もその森に立ち入ろうとはしませんでした。
その身体は黒く長い毛で覆われており、人間の二倍ほどの大きさもありました。何より人々が恐れたのは、野獣の、鷹のように獰猛な鉤爪と、サメのように尖った凶暴な牙と、そして、ぎらぎらした六つの目でありました。
野獣は醜い姿形と同様に、心も酷く荒んでおりました。
夜遅く町に下りてきては人の住む家や畑を荒らしたり、山に迷い込んできた旅人を追いかけまわしたりして、人々は何度も銃を手に取り野獣を倒そうと考えました。
しかし、野獣は長く生きてきたものですから、それを跳ねのける知識と力を備えていたのです。
そのため、誰一人として、その野獣にかなう者はいませんでした。
野獣の名は、オーガーといいました。
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ああつまらん、退屈だ、何か面白いことが突然この場に訪れやしないか。オーガーは椅子に深く腰掛け、とりとめのないことを考えていた。
「おい、アグリ、アグリは居るか!」
声高くそう呼ばわると、正面の扉が大きな音を立てて開き、従者のアグリがひょこひょこと駆け込んできた。
「何でしょう、オーガー様、アグリはここにおりますぞ」
アグリは従者と言うにはあまりに小汚く、薄汚れたボロを身に纏っていた。なにより彼は二本足で歩くイタチのような出で立ちの獣であった。
「アグリ、俺は退屈で退屈で参っている。何か面白いことをしてみせろ」
「お言葉ですが、オーガー様」
アグリは着ているボロと同じくらい薄汚れた手をこすり合わせて、哀れっぽくオーガーを見上げた。
「アグリの右足は昔、猟師に撃たれて動かなくなってしまいました。だから跳んだり踊ったりして、オーガー様を喜ばせることはできないのでございます」