月も出ていない静かな夜。辺りは真っ暗で、一寸先は闇とでも言ったところ。
そんな深い闇夜の中、提灯の灯りだけを頼りに、二人の男が歩いていた。軽く夜遊びをした帰りで、陽気に笑い声を響かせている。辺りに民家はなく、二人の存在だけが際立っているようだった。あとは道の脇に立つ木々が、時々提灯の灯りに照らされるくらいである。
墓地の前を通りかかって、一人が言う。
「真夜中ともなると、さすがに薄気味悪いな」
「そうだな。今日みたいな日は特に」
もう一人も応じて、提灯を墓地の方へ向ける。すると、その灯りに照らされて、何か転がっているのが見えた。
「あそこに何か落ちていないか?」
「ああ。ちょっと見てみるか」
二人は墓地へ入って行く。
近づいて確認すると、それは俵であった。
「こいつはジャガイモだ。珍しい落し物だな」
中には綺麗なジャガイモが一杯に詰まっていて、棄てられたものとは思えない。
「どうする? 役人に届けるか?」
「いや、誰も見てないし、二人で分けようぜ」
「ハハ、そうするか」
二人は道から見えないように、俵を墓石の陰へと引っ張り込む。
そして、俵を開くと、ゆっくり中のジャガイモを分け始めた。
「まず俺が一つ、お前に一つ……」
等しく分けるために、数えながら交互にジャガイモを置いていく。
ちょうどその時、墓地の前を通りかかった男たちがいた。大酒を飲んできた帰りで、上機嫌な三人組である。その内の一人が気付いて言った。
「何か墓地の方から聞こえないか?」
三人は耳を澄ませ、墓地の方を窺う。
すると、墓地の中から何かを数える声が聞こえてくるではないか。勿論、それは二人の男がジャガイモを数える声であるが、三人は知る由もない。