小説

『ある夜の出来事』長月竜胆(『じゃがいもどろぼう』)

「まあな。あれだけ富を独り占めして丸々と太っていたのに、死ぬ間際には病のせいで骨と皮だけになっていた。憎たらしい男だったが、あれを見ると気の毒にも思えたな」
「当然の報いだよ。今頃は地獄でもっと苦しんでいるさ」
 それを聞いた三人はまた勘違い。
「長者さんは痩せ過ぎて食べるところがなかったって話しているぞ」
「ああ、それに生前の悪行が祟って地獄にいるらしい」
「地獄で苦しんでいるのか。やっぱり悪いことはするもんじゃねえ」
 地獄と聞くと、また別の怖さがある。三人はそれぞれに自分たちのこれまでの行いを思い返し、人知れず反省した。
 その頃、いよいよジャガイモは残りが三つだけになっていた。
 男が片手で二つ掴もうとすると、手を滑らせてジャガイモが転がり落ちる。
「おっと、活きの良い奴らだ。だが逃がしはしないぞ」
「これで最後だな。右は俺が貰おう」
「じゃあ俺は左だ。残ったのはどうする? 半分にでもするか?」
 笑いながら話す二人。
 しかし、それを聞いた三人は、自分たちのことを指して言っているのだと思い、悲鳴をあげる。
「俺たちのことも食うつもりだぞ」
「俺、真っ二つにされる……」
「早く逃げるぞ!」
 一気に酔いの醒めた三人は、全速力で暗闇の中に消えて行った。
 そして、ジャガイモを分け終わった二人。
「今何か悲鳴が聞こえなかったか?」
「そういえば、ここは墓地だったな……」
 今更ながら不気味に思い、二人は顔を見合わせる。そして、一人が急に声をあげた。
「見ろ、人魂だ!」
 もう一人も振り返って確認すると、二つの灯りが空中を漂うように迫ってくる。
「近づいてくるぞ! 隠れろ」

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