その部屋はありとあらゆる物が破壊されていた。
どこにでもあるようなアパートメントのワンルーム。
テレビの画面には蜘蛛の巣を描いたような罅が入り、
キッチンには陶器の破片と化した食器の残骸が広がり、
天井からぶら下がった埃と油にまみれた電球は砕け、
部屋の隅に置かれたベットには雪のように綿が積もり、
部屋の中央に置かれたテーブルと椅子は穴だらけで、
床には新聞紙と紙屑にはきらきらと薬莢が散らばり、
四方を囲む壁には星座を書くかのように弾痕が刻まれていた。
その壁にへばりつくようにしゃがみ込む男が一人。
KEEPOUTの文字が印刷されたテープで入り口を閉ざされた部屋の中に彼一人。
一見すると寝癖かとも思われるようなくせっ毛のその男は薄いビニール製の手袋を填めた手でピンセットを握り、壁から吹き出す壁材の粉が眼鏡に張り付くのも気にせず、慎重な手つきで壁にめり込んだ弾丸を摘出していく。
男は壁から引きはがした弾丸を傍らに置かれた、SF映画に出てくるマスコットロボットのようなドームを頭に乗せた筒状のシルエットの機械に置いていく。
弾丸は漏斗状の穴から機械の中に吸い込まれていき、一つ弾丸が飲み込まれる度に、取り付けられたディスプレイが明滅し、「一致」の文字とともにその弾丸が市に銃器登録された誰の銃から発射された弾なのかを表示していく。
同時にディスプレイには部屋のスキャン画像が表示され、摘出された弾丸が部屋のどこにどの角度で埋まっていたのかを記録していく。
男はその結果を確認することもなく、無言でただひたすらに壁から弾丸をほじくりだしていく。そうして摘出された弾丸の総数が3桁に届こうかとしている頃、唐突に作業の手が止まる。
感じ取ったのは部屋に吹き込んだ一陣の気配。
忍ぶこともなく堂々と足音を立てて部屋に侵入してくる人の気配。
腰のホルスターに収納された銃に手をかけながらその気配が彼のいる部屋に入ってくるのを迎える。
「そこまで。表に囲ってあるKEEP OUTの文字が見えませんでしたか?」
入り口で足を止めた侵入者は右手を挙げ、反対の手でくたびれたベージュのジャケットをめくりベルトに引っかけたバッジを示す。
「マック・ジェネロー。殺人課の刑事だ」
頭頂部は既に髪の毛の大半が禿げ上がったマックと名乗る男は、既に張りを失い皺の入った顔の皮膚にしかめっ面をすることでさらに皺を寄せる。