ある所に、貧乏だが正直者のお爺さんが一人で暮らしていた。お爺さんは毎日欠かさず山に登り、木の実や山菜を採ったり、薪を集めたりして生活している。また、山道の途中にある神社に立ち寄るのが日課であり、誰も手入れをすることのなくなった境内を綺麗に掃除し、採ってきた木の実や山菜の一部をお供えする。
「神様、こんなものしかありませんが、どうか勘弁してください」
お爺さんが手を合わせると、神社の中から声がした。
「勘弁も何も感謝の気持ちしかない。欠かさぬ日々の献身、深く身に染み入る」
それが神様の声だと直感したお爺さんは、慌ててひれ伏した。
「恐れ多いことでございます」
「感謝の印として、この頭巾を授けよう。これを身に付けていれば、鳥の声を理解できるようになる」
お爺さんが顔を上げると、お供え物の横にいつの間にか綺麗な頭巾が置かれていた。
家に帰ったおじいさんは、二羽の鳥が木にとまっているのを見つけると、さっそく頭巾を試してみることにした。頭巾をかぶった途端、それまで聞こえていたさえずりが消える。そして、まるで人間同士が会話をしているかのように、言葉が聞こえてきた。
「長者の娘は日に日に弱っているな。両親が献身的に介護しているだけに、ひどく気の毒に思える」
「しかしどうにもならないだろう。高い薬や医者は何の役にも立たない。屋根裏に囚われた蛇の祟りなのだからな」
「何とか伝えてやれればいいのだがな……」
長者の娘が病にふせっているという噂は、お爺さんも知っていたため、すぐにこれが本当の話なのだと分かった。居ても立ってもいられなくなったお爺さんは、すぐさま長者の屋敷へと向かう。
お爺さんは、頭巾のことや鳥から聞いたということはうまく伏せたまま、屋根裏の蛇のことを長者に伝えた。半信半疑の長者であったが、お爺さんが嘘をつくような人間でないことを知っていたため、すぐに屋根裏を調べてみることにした。すると、一匹の蛇が尾を板に挟まれ、身動きがとれなくなっているのを見つける。長者が蛇を自由にしてやると、娘の体調は嘘のように快方に向かった。お爺さんは大変感謝され、沢山のお礼を貰うことができた。
ところが、それからしばらくして、今度は長者の妻が病に倒れてしまった。娘の時と同様に、一向に回復の兆しが見えない。お爺さんは再び頭巾を使って、鳥たちの会話を聞いてみた。