小説

『鳥の噂話』長月竜胆(『聞き耳頭巾』)

「蛇を自由にしたことでネズミたちが怒っているようだな。長者の家を追われて町の神社の辺りに住み始めたみたいだが……」
「確かにネズミからすれば余計なことだったか。怒りを静めてやらないことには、長者の妻も回復しないだろう」
 お爺さんは長者にそのことを伝える。長者はネズミへのお詫びとして、神社に食料を捧げた。すると、それが効いたのか、長者の妻はすぐに元気になった。
 しかし、間もなく今度は長者本人が倒れる。お爺さんはまた頭巾をかぶり、鳥たちの噂話を頼った。
「今度は神社の神様が怒ったようだな。神様にはお供え物をしないのに、ネズミにはお供え物をするんだからな」
「それに、あれから神社にネズミが出入りして、荒れてしまっているらしい」
 お爺さんは長者にそのことを伝える。長者は神社の修繕費用を出し、しっかりお供え物をして神様に詫びた。それから長者は元気を取り戻し、家族の誰かがまた体調を崩すということもなかった。しかし、様々なことにお金をつぎ込んだため、気付くと長者の家はすっかり貧乏になっていた。
 ある日、お爺さんがいつものように山へ登る支度をしている時のこと。ふと見上げると、鳥たちと目が合った。何か気になったお爺さんは、頭巾をかぶり、耳を澄ませる。
「長者は気の毒なことになったな」
「ああ、全部あのお爺さんのせいらしい。疫病神だな」
「あのおじいさんがいなくなれば、きっと長者も元の豊かな生活に戻れるだろう」
 正直者のおじいさんも、さすがにこれは誰にも言わなかった。

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