真昼の白い光に熱された歌舞伎町は、腐りかけの死体に似ている、と修一は思った。
すでに終わっている人生。やり直しのきかない失敗。後はただ、どろどろになって形を失い、塵になるまで踏みつけられるしかない生ゴミと吐瀉物。
──それも悪くない。あきらめがつくからな。
子犬ほどもある、大きなドブネズミの死骸を片付けながら、修一はなぜか、笑みを浮かべる。
真夏の熱気にさらされて、死骸はすでに腐敗が始まり、傷口にウジ虫がうごめいている。死骸に気づいた通行人が、眉をひそめ、鼻を押さえ、足早に通り過ぎていく。嫌悪をあらわにしながらも、人々はなぜか凄惨な死骸から目を離せなくなる。修一はその様子を見て、また皮肉な笑みを浮かべる。
──せいぜい最後に、奴らに見せつけてやればいい。誰にも愛されず、嫌われて、野垂れ死ぬってことの、すさまじさを。
修一は新聞紙でくるんだネズミの死骸を、二重にしたゴミ袋に入れてきつく縛り、業務用のゴミ容器に放り込んだ。それから、ふと思いついたように、ホスト・クラブの前に置かれた祝い花のスタンドから、白い百合を一本引き抜き、死骸の上に置いた。
「じゃあな」
修一は、ゴミ容器に蓋をすると、道路の向かい側のバーの扉が開いた。
「ちょっと、ネズミの死骸を片付けるのに、いったいどれだけかかってるのよ」
木の扉の隙間から顔をのぞかせた女が、酒焼けしたがらがら声で、修一に向かってどなった。
「ねえ、早くこのビール、中に運んじゃってよ。こう暑くっちゃ、沸騰しちゃうわ」
顔立ちは悪くない。若い頃はさぞ、男達に言い寄られたに違いない。でも、長年の荒れた生活が、女を残酷なまでに劣化させていた。老化ではない。劣化だ。しわができたとか、しみができたとか、腹がたるんだ、とか、そういう自然な老いとは、まったく種類が違う。
まともじゃない生き方をしてきた人間特有のすさんだ汚れが、女を昼間の太陽には耐えられない醜悪な生き物に変えてしまったのだ。
──どこで道をまちがえたんだかな。
修一はビールのケースを軽々と持ち上げ、肘で木の扉を押して、暗い店内に入った。強い日射しの中から、薄暗い店内に入ると、一瞬、何も見えなくなる。修一は目を閉じ、視界を闇に慣らした。
「ああ、こっちに持ってきてよ」