小説

『Bros.』村越呂美(『偸盗』芥川龍之介)

 藤島はそう言って、あみの手から鍵を取り、勝手に部屋に入った。藤島は冷蔵庫を開け、「ビールもないのか」と舌打ちしながら、一枚の写真に目を留めた。そこには祐二が写っていた。
「お前、まだ祐二に惚れているのか?」
 藤島はからかうように、あみに尋ねたが、あみはうつむいたまま、答えない。
「やめておけよ。祐二は沙希に夢中だからな、お前さんのことなんて、眼中にないよ」
 沙希の名前に、あみは顔を上げた。
「なんだよ、知らなかったのか。今日も会ったぜ、沙希のマンションで。ま、向こうは俺に気がつかなかったみたいだけどな」
 藤島は言いながら、呆然とするあみの体に手を回した。

「それ、どういうことだよ」
 ベッドから身を起こして、祐二が声を荒げた。
「だから、修一にばれる心配は、もうしなくていいってこと」
「そうじゃなくて、なんで兄貴が今夜、青木事務所に強盗に入るのをお前が知っているんだよ」
「だってえ、私が頼んだんだもん」
 沙希はそう言ってくつくつと喉を鳴らす、嫌な笑い方をした。
「どうして、そんなことさせるんだよ」
「藤島のおやじに犯されているところを、青木に盗撮されて脅されているって言ったの。そうしたら修一の方から、データを取り返してやるって言い出したのよ」
「それが、青木事務所にあるのか?」
「ないわよ、そんなもの」
「なんだよ、それ」
「なんか、見てみたくなったのよ。あの化けものが、私のためにどこまでやるのか」
 祐二は唖然とした。狂っている。この女は狂っている。
「同じことを、藤島のおやじにも言ったから、今晩、二人が青木のところで鉢合わせするかもしれないわ」
「大丈夫なのかよ」
「大丈夫なわけないでしょう。私、ちくったもの、青木のところのちんぴらに。おたくに盗みに入る計画立てている奴がいるって」

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