そろそろ、軒先の風鈴を片づけなければ。
暮れゆく夏の終わりの日差しが、店の中にまっすぐに届いている。
今日はお客の少ない一日だった。りん、と風鈴が鳴り、さて、今日もそろそろ店じまいと腰を上げたとき、がら、と引き戸を開ける音がする。
「もし、これを、引取っていただけますか。」
逆光のため、顔の造作はわからなかったが、そのシルエットから僧形の人物のようだった。坊主頭なのはわかる。が、何かが欠けている。
ああ、そうか、耳介がないのか。
目が悪いようで、杖を片手にしている。狭い店内は危なかろうと、手を取って案内をしようとしたが、男はそれを断って紫色の袱紗に包まれたものを机の上に置いた。
筑前琵琶や薩摩琵琶よりはやや小ぶりの琵琶である。盲僧琵琶に近いが、この形は確か平曲のための―。
「平家琵琶ですか。時代物の逸品ですね。これを、お預けになると。」
男は無言で頷いた。
「失礼とは思いますが、お預かりにあたって、いくつかお話を聞くことになっているのです。これをわたくしの店に持ち込んだわけを伺わなくては、規則により引き取ることはできません。」
私の後ろには、客の目の届くところに鑑札がかかっている。紺地に白い文字が染め抜かれた陶板の鑑札だ。
特別物品管理委員会 許可第AS-08459号
御道具預商 拾思堂
私のところには実に様々な品が持ち込まれる。棚には今までに預かったいくつかの「御道具」が並んでいた。
飾緒のついた紅白の紐で封をされた漆塗りの箱。これには開封厳禁の札を貼ってある。
大きなつづらと小さなつづらのセットに、鶴の羽を織り込んだ美しい反物も置いている。その反物の横には古ぼけた茶釜がある。この茶釜、たまに移動しているようで、いつも置く場所には気を使うのだ。