昔むかし、あるところに達吉という男がおりました。達吉は薪割りや柴刈りをして生活をしておりました。村には弥兵衛という歳の近い友人もおり、よく二人で山に入っては仕事をし、他愛もない話で退屈を紛らわせていました。
達吉が柴刈りに行く山には、立派な池があります。綺麗な池のほとりはいつも涼しく、もっぱらその池のほとりで休憩していました。
ある曇りの日、達吉はいつも通り山に柴刈りに行きました。柴を背負子いっぱいに担いで、汗だくになった体を休めるために、池のほとりに生えた木の陰に腰を下ろしました。
しばらく休んでいると、にわかに空が光りました。雲の隙間から一条の光が差し、そこから輝かんばかりの美しい女がひらり、ひらりと降りてきます。
(なんて美しいんだ。あれは天女さまに違いない。)
達吉は木の陰からその姿を覗いていました。天女さまは羽衣を大岩にかけて、水浴びをし始めました。達吉はその様を食い入るように見つめます。
ここでふと達吉の心に魔が差しました。
(このまま見ているだけでは、天女さまは天へ帰ってしまう。)
達吉は大岩にかけられた羽衣を盗んでしまったのです。天女さまはそれに気付いて、困り果ててしまいました。
「もし、それは私の羽衣でございます。羽衣が無いと私は帰れませぬ。どうかお返し下さい。」
「妻になってくれるならば羽衣を返しましょう。」
返してくれと何度言っても全く聞き入れない達吉に、とうとう天女さまは折れました。達吉は天女さまを村に連れ帰り、共に暮らすことになりました。初めは渋々だった天女さまも、真摯に自分を好く達吉に笑顔を向けるようになりました。