これが面白くなかったのは弥兵衛です。達吉の隣に立つ天女さまは大層美しく、村でも評判でありました。その姿を一目見たいと、噂を聞きつけて遠くからやってくる人もいる程でした。弥兵衛はそれが妬ましくて仕方ありません。達吉と天女さまが出会ったという池は、弥兵衛も何度も訪れたことがあります。あの日自分も訪れていれば天女さまを迎え入れられたのは自分だったかもしれないのです。嫉妬に狂った弥兵衛は、次第に達吉が手に入れた幸せは自分が手にしていないとおかしいと思い始めました。幸せそうに笑う達吉を見るとますます不満を抱えていったのです。
ある日、弥兵衛は達吉を山に誘いました。
「熟れたあけびが生っていたんだ。きっと甘いぞ。」
「それはいい。天女さまもきっと喜ぶだろう。」
達吉は上機嫌で誘いに乗りました。行くのはあけびがよく生るけれど、険しい道で村人も中々近付かない場所です。それでも達吉は天女さまに美味しいものを食べさせたかったのです。
頑丈な棒切れをお供に二人は険しい道を進みます。汗だくになりながらも辿り着くと、そこには実はなく、小さな薄紫の花が咲いているばかりでした。
「どういうことだ、まだ花じゃないか。」
達吉は怒って大声を出しましたが、弥兵衛はまるで答えません。今まで杖として使っていた棒切れを弥兵衛の足元に叩きつけて、達吉は踵を返します。
「一体何なんだ、おれはもう帰る。」
そう言って、弥兵衛に背中を向けました。その姿に、弥兵衛は我慢しきれずにとんでもないことをしてしまいます。なんと、達吉に襲いかかったのです。