小説

『Early to kill girls』室市雅則(『アリとキリギリス』)

 僕はいじめられている。
 僕をいじめているのは同じクラスの女の子たち三人組。彼女たちは、ちょっと可愛くて、男子から人気があって、毎日を楽しそうに過ごしている。明るいから先生たちのウケも抜群だ。
 その一方で、彼女たちは、僕が太っていることを中心に、嫌なことを言ってくる。たくさん食べるのをやめれば良いのかもしれないけれど、お父さんもお母さんも僕がたくさん食べるのを喜んでくれるし、僕も食べることが好きだからやめられない。
 では、お父さんとお母さんに相談できるかと、それはできない。二人が悲しむだろうから言い出せずにいる。それなら、先生に相談してはどうかと思うだろう。それもできない。先生に相談をすれば、お父さんとお母さんに伝わってしまう。
 もしくは、言い返すことができれば良いけれど、僕は口下手だし、気が弱くて、何かを言われても、無理やり笑顔を作ってごまかすだけだ。
 二進も三進も行かないけれど、学校には行かなければならない。だから、僕はあることをコツコツとやって気晴らしをすることで、あまり落ち込まないように保っている。

二つある気晴らしのうち、明るい方は、寝る前に空想をすることだ。僕がスーパーヒーローになって、悪者の彼女たちをこてんぱんにやっつける。最初、僕はピンチになるのだけど、最後は、手からビームを出してうちのめす。彼女たちはボロボロになって死んでいくのだ。
 そして、もうひとつは、自分でも暗いかなと思いつつ、スーパーヒーローの空想よりも現実感があるから好きだ。
僕の学校には今も焼却炉がある。ほとんどの学校で焼却炉は無くなっているらしいけれど、田舎だからか、燃えるゴミはそこで処分をしている。
 焼却炉は校舎から少し離れているし、火の中にゴミを放り投げてくれる用務員のゲンちゃんが不気味だから、みんなはゴミを持って行きたがらない。確かに、ゲンちゃんは、おじさんとおじいさんくらいの見かけで、いつも日焼けして真っ黒だし、何も喋らないから怖い。誰もゲンちゃんの声を聞いたことがない。もちろん僕も怖い。それでも、気晴らしのために、立候補をしてゴミ運びをやるようにしている。まさか、僕がそんなことを企んでいるとは知らないから、その時だけは、少しだけヒーローの気分が味わえるのが嬉しい。彼女たちからは『少しでも動いてダイエットだね』と笑われるだけだけど。

 肝心の気晴らしの方法は、こんな具合だ。
 まず折り紙(もしくは余った紙)で、『やっこさん』を三つ作る。そして、それぞれにあの三人の名前を書く。名前が与えられた『やっこさん』を彼女たちの分身だと見立てる。それをポケットの中に隠して、焼却炉に向かう途中で、ゴミ袋に入れる。
ゴミ袋をゲンちゃんに渡すと、ゲンちゃんは焼却炉の蓋を開け、燃え盛る炎の中に投げ入れてくれる。
 僕はそれを見て、彼女たちの分身が炎の中でゆらゆら揺れたりしながら、燃え尽きる様子を想像して『ざまあみろ』とスッキリさせている。

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