かぐや、元気にしていますか。あなたと最後に話してから、もう幾月経ったでしょうか。朝、竹林を揺らす風のにおいで、あなたと出会った時のことが、思い出されます。深緑のつややかな容れものに入って、うずくまっていた小さいあなた。光の中、目をこらすと、赤子ではなく、枯れ木のようにやせ細って傷だらけの娘でした。やがて、あなたは目覚め、私たちは一瞬、見つめ合いましたね。そして、確かに微笑み合ったのです。これから始まる二人のたくらみを、知っているかのように。
「…誰?!」
その子の胸元から放っていた光が収まると、子は外れていた被りを、あわてて目深にかぶった。被りは兜のように、固そうであったが、前が少し透けており、うっすらと見える子の目は明らかに怯えていた。
(ひと…なのか)
私は、もっと見たいと思い、大きな筒に近づいた。子はますます小さくなる。ふと、子の目の先が、私の手の鉈に向いていることに気づき、慌ててそれを籠へしまうと、できるだけ優しい声で話しかけた。
「私は竹取の嫗で、翁のかわりに、竹を取りに参ったのです。…あなたは?大丈夫?」
赤黒い傷が体のあちこちにあり、触れたらぺきりと折れそうな腕。さて、どうやって出してやろう?と考えていると、ぎゅうーという聞きなれた音がした。
「…お腹、空いているの?」
子は、小さく頷いた。私は、腰に下げていた握り飯を出して、子の手にのせた。ひとくち食べて、彼女は一瞬驚いたような顔をしたあと、被りを取って、がつがつと一気に平らげた。途中渡した水筒の水を一気に飲みほし、手についた飯粒もきれいに舐めたあと、私の方をじっとみた。
「アリ…ガトウ?オウナ…」
なぜ疑問形?と思ったが、そのまま子の声に耳を澄ました。
「オウナ…嫗とはババアのことではないのか?アナタは若いし、キレイです」
私はふと、自分が普通に立っていることに気づいた。普段は、背丈を翁に合わせて、前かがみになって歩いている。年も二十は下なのに、皆の前では老婆のようにふるまっている。
「あなたのところでは知らないけど、ここでは齢が五十ぐらいは翁なの。私は夫に合わせないといけないし、だから…」
「何故?」
何故だろう?考えたこともなかった。幼い頃より大柄で、男より目立ってはならぬと親にさんざ言い聞かされたせいか。あるいは、後添いで若いのに石女(うまずめ)かと、村の者に陰口をたたかれたからか。
「…そんなキレイなの、ウラ、やましイ。」