小説

『かぐやへ』本谷みちこ(『竹取物語』)

「え?」
「アタシがそんなカラダだったら、ママも許してくれたかナ」
 どういうこと?
 そう聞こうとしたら、子は眠っていた。気のせいか、先ほどよりも頬が少しふっくらとしたように見える。なんとなく、大丈夫そう、と思い、子を大きな筒から抱き上げ、おぶった。耳元の寝息と、背中に感じる小さな温みは、私がずっと欲しかったそれであった。

 家に娘を連れて戻ると、腰痛で横になっていた翁が、布団より顔をだした。
「…なんじゃその子は。」
 聞かれることは分かっていたが、どう説明したものか、迷った。
「竹は取ってこんかったのか?」
 ああそうだ、竹。竹だ。
「この子は、光る竹の中にいたんです。子のおらぬ私達へ、天がお授け下さったのですよ。」
「そんなこ汚い子なぞ、養う金はないぞ。…痛たた。」
 また布団にもぐる。あーあ、働く気ないよ、このひと。
「…明日また竹を取ってきます。」
 負ぶってきた子を、自分の布団へ寝かせると、私は湯を沸かし始めた。子の体を清め、傷の手当をしたかったのだ。沸いた湯をゆっくりと桶に注ぎ、手ぬぐいやらと持って、子のもとへ行くと、彼女はまだ眠っていた。私はそうっと桶を置き、絞った熱めの手ぬぐいで、子の手足を、丁寧に拭いていく。すると、みる間に白い肌が現れた。そして幾つものどす黒い痣。胸元を開くと、痩せた肋骨の上には、小さくとがった二つのふくらみがあった。彼女は明らかに、十を超えている。
(ほんとう、なんだな、あの話。)

 竹林からの帰り道、私の背中で、もぞもぞ動く感触があった。
「目が覚めた?」
「…まだ、ねむ・イ…。」
「もう少しでウチだから。」
「…」
 負ぶっているその子が、私の背に頬を摺り寄せ、顔をうずめているのがわかる。
「どうしたの?母さまが恋しい?」
「…いいや。」
 少し緊張ぎみに、しかしきっぱりと彼女は言った。
「ママ…お・かあさま?アタシ、キライ。お・かあさまと、チガウカラ。」
「…かお、とかのこと?」

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