早いもので、あれから二十年の月日が流れた。
十年一昔と言うように、世間は目まぐるしい勢いで移り行く。二十年も経て
ば過去の産物として、この世に存在しないものさえ多いが、この村には二十年の月日がもたらす変化は殆どない。
春には城田川に沿って桜が咲き、深い緑に覆われる夏には蝉の鳴き声が響き渡る。秋には田丸山が赤く色付き、そして冬は一面の銀世界が訪れる。ただ変わることなく、それを二十回繰り返すだけのこと。
城田川に架かる吊り橋から眺める景色もまた、変わることなくあの日のままだ。
僕の家の庭には畑があった。母さんが家庭菜園を趣味として始めたのだが、両親と僕の三人暮らしの割には規模が大きく収穫量が多かった。
収穫した野菜は近所へおすそ分けをするのが定例で、母さんはそれもまた楽しみにしていた。自分の手塩にかけて育てた野菜を喜んでもらえることに、生きがいを感じていたのだ。そして、近所へ届ける時には、僕も一緒について行くのがお決まりで、僕にとっても楽しみの一つだった。
小学四年の夏休み。
トマトとキュウリの収穫時期を迎えた。その年は気候が良く、例年より多くの収穫があった。
「克樹、お隣さんとこ行くから、運ぶの手伝ってくれる?」
「うん」
段ボール箱一杯に詰まったトマトとキュウリは、僕には少し重かったが「これくらい大丈夫!」と、良いところを見せたい一心で力を振り絞って運んだ。
お隣に住む中村さんは、高齢の夫婦二人暮らし。一人息子の治さんがいたが、東京で家庭を持ち、年に数回帰省しているのを何度か見掛けたことがある程度だった。
その日、中村さんの家の前には、見慣れないナンバーの白い車が停まっていた。
中村さんの玄関までは距離にして三十メートル程だが、到着する頃には両手が痺れ、感覚が麻痺していた。それでも「大丈夫?」という母さんの言葉に「余裕だよ、これくらい」と、強がって見せた。
「ごめんください!」
母さんが呼び掛けると、中から「はーい!」と、すぐに男性の声が返ってきた。
玄関の引き戸が開き、中から顔を覗かせたのは治さんだった。
「あら、お久しぶりです。帰ってきてたんですね?」
「こんにちは、いつも両親がお世話になってます」