治さんは父さんの二学年上で、子供の頃からよく知っているらしい。僕は間近で顔を合わすのは、その時が初めてだった。
「息子の克樹です。ほら、挨拶して」
「こんにちは」
「これ、良かったら食べて下さい。出来が悪いかも知れませんが、庭になったやつなんです」
「ありがとうございます。美味しそうですねぇ。重いのに、ありがとう。エライね」
治さんは、軽々と段ボールを受け取ると、玄関先にそっと置いた。
「克樹君は、いくつだっけ?」
「十歳です」
「そっかぁ、じゃあ、うちの子と同じだね。ちょっと待ってね」
そう言うと、治さんは「おーい!康太!」と、家の中に向け、大きな声で呼びかけた。
ほどなくして、おじいちゃんに手を引かれた男の子がやって来た。
「ああ、おはようございます。いつもありがとうね」
「おはようございます。今年は特にたくさんなりましてね」
「康太、ほら、挨拶して!お隣の克樹君」
康太は治さんの腕にしがみ付いて、少し照れ臭そうに僕の様子をうかがった。
「ちゃんと挨拶しないか!」
「こんにちは」
康太が照れ臭そうにするものだから、僕も妙に照れてしまい、「こんにちは」と返す声がとても小さかったのが、自分でもよく分かった。
「実は、妻が少し体調崩して入院することになって。恐らく一ヶ月ほどなんですが。その間、祖父母に預かってもらうんです」
「あら、それは大変」
「だから、もし良かったら康太と一緒に遊んでやって下さい。都会っ子だから、放っといたらずっとゲームばかりしてるから。な、康太!」
康太は、ばつが悪そうに、手にしていたゲーム機を背中に隠し「そんなことないよー!」と、舌を出した。
「こちらこそ、いっぱい遊んであげて下さい。この子も喜ぶと思います。この辺りは子供が少ないから。四年生は三人しかいなくて、男子は克樹だけなんです」
「そうですか。昔はもう少しいたけどなぁ。いやぁ、良かったなぁ、康太」
相変わらず、康太は照れ臭そうにモジモジとしていた。お互いに親の前では恥ずかしくて、その時は何も言葉を交わすことができなかったが、僕は東京からやって来た同級生との出会いに心が踊っていた。