『モモ、傍にいる』
木江恭
(『桃太郎』)
小惑星O-NIが地球に接触し被害をもたらす確率、二十パーセント。その危機を防ぐため小型宇宙船で出撃するモモが背負う死の確率、九十九パーセント。それは、ライカ、コトリ、エンの三人のきょうだいがモモに置いていかれる確率でもある。そうはさせない。出撃前日、ライカは作戦を決行する。
『咳をしたなら』
室市雅則
(『咳をしても一人』尾崎放哉)
半年前に妻と離婚し、今は一人で暮らす男。家に帰っても誰もおらず、冷え切った部屋だけが待っている。風呂上がりにビールを片手に夜空を眺めると月も出ていなかった。孤独を紛らわそうと咳を一つした。余計に孤独になった。しかし、その咳が原因で・・・
『8月の部屋』
日根野通
(『2月の部屋』)
蓼科は突如現れた、友人の婚約者を名乗る女に依頼され、姿を消した友人の足跡を追う。行きついた「繊月堂」の女主人は、座敷の部屋を巡るよう蓼科に勧める。ただし八月の部屋を除いて。蓼科は八月の部屋を開ける。そこでは猫の化け物が友人を埋めていた。蓼科は猫の村から逃げ出し、人里へ走っていく。
『桃太郎外伝 なよ竹のかぐや姫』
長月竜胆
(『桃太郎』『竹取物語』)
自分は一体何者なのだろう。鬼退治の英雄、桃太郎は、いつしか悩むようになっていた。そんな折、耳に入ったのは、竹から生まれたというかぐや姫の噂。似た境遇に興味を抱いた桃太郎は、答えを求め、かぐや姫のもとを訪れる。しかし、逆にかぐや姫は、自身の正体を知ったことで苦しんでいた。
『Okiku_Dool』
植木天洋
(『お菊人形』)
骨董屋巡りが好きなカップル。ある日彼女は一体の小振りな日本人形を見つけて、妙に心惹かれる。数日経っても人形のことを忘れられない彼女は、彼の承諾なしについに人形を買ってしまう。人形との生活がはじまって数日後、人形に変化が起き始める……。
『ごめんなさいね』
吉倉妙
(『マッチ売りの少女』)
過去に、隣人として助けてあげられなかった小さな命がある。その罪悪感から、母となり、幼い娘に読み聞かせてあげられなかった「マッチ売りの少女」の絵本。そんな彼女を救ってくれたのは、彼女と同じ経験をした女性の一言だった。
『パノプティコン』
末永政和
(『シャロットの姫』テニスン)
神々の怒りに触れたシャロットは、天高き尖塔に閉じ込められた。窓辺から下界を見たとき、お前はすべてを失うであろう。呪いに縛られたシャロットは、部屋の鏡にうつる、人々の暮らしを見つめながら日々を送っていた。人々もまた、尖塔を神の座と崇めながら慎ましく暮らしていたが……。
『ビーフジャーキーと猫』
広都悠里(『七匹の子ヤギ』)
さよなら、さよなら、甘えたがりのさびしがりやの猫、猫のあたしに気付かなかったおかあさん、隠れたまま小さくなっている七番目の子ヤギ。握りしめていたビーフジャーキーはもういらなくなった。あいた両手を隼人の背中に回す。ありがとうあたしに気付いてくれて。だいすき。