「いきなり竹中さんの生まれについて大声を出しちゃって本当に申し訳なかった。俺も、生まれが変ってことで嫌な思いしたことあったのに、デリカシーのないことしたなって反省してる。でも…。」
「待って、桃から生まれたってどういうこと?私のことからかってる?」
「違うんだ、これを見て!」
出された携帯電話には、大きな桃と、若い夫婦、そして赤ん坊が写っていた。
「これ、俺ね。で、こっちが両親で、この桃の中に俺が入ってた。」
「話が見えないんだけど?」
「とにかく、俺は桃から生まれたんだ。ゆっくり話したいから、カフェでも入らない?」
「俺の両親は桃農家だったんだ。ある日、妊婦だった母のお腹がいきなりぺたんこになったんだ—。そして、桃の木に大きな桃の実がなって、どんどんそれが成長していった。その桃が熟れて実が落ちたとき、中から生まれてきたのが俺なんだ。」
アイスコーヒーを飲みながら彼は自分の出自について話始めた。彼の両親が周りに知られることを恐れて彼の出自を隠したこと。母親のお腹から生まれなかった自分に対する恐怖感を一人で抱えてきたこと。自分と同じような出自の私の存在を知ったこと。そして、いつか私に会ってみたいと思ったこと。
彼の話を聞いているうちに、彼に対する印象は変わっていった。似たような出自を持つ私たちが惹かれ合うのは、時間の問題だった。
3
月日は流れ、私たちは結婚した。私はようやく竹中という姓から抜け出せた。桃井美姫になったのだ。私たちは二人で穏やかな生活を送っていた。こんな生活が続いていけばいいと思った。
ある日のことだった。急に気分が悪くなり、トイレに駆け込んだ。何か変なものを食べたのか?しかし、心当たりは何もなかった。ずっと気分が悪く、食欲もない。
「なんだか今日は気分が悪くて、何も食べたくない。吐き気がするけど、食中毒の心当たりがないの」
夫は言った。
「もしかして、妊娠した?」