小説

『かごめかごめ』春野太郎(『座敷わらしのはなし』(岩手県遠野))

 リーダーの太郎はその様子をさっと見て。
「泣くな! 皆で踊るんだ」
 と、号令すると、子供たちみんなは一斉に男を取り囲みました。ひとりだけ輪に加われない遅い子がいました。その子はテンポがずれて、輪からはみ出していたのですが。
「十人だ! 皆、輪をつくれ」
 との太郎の言葉とともに、輪に組み入れられ、男を取り囲み。再び子供たちは今度は「かごめ♪ かごめ♪」とその場を回り始めました。こうして総力あげて子供たちは大人たちから、身を挺して男を護りました。
 子供たちみんなに取り囲まれた男は、輪の中央で最初はキョトンとしておりましたが。子供たちが、みな笑ってーまだ幼いこどもは、文字通り無邪気に笑ってーぐるぐるまわりはじめたので、次第に嬉しくなってきて。
「ありがとう!」
 と、別のひとりの子供とハイタッチすると、輪の中に入りみんなとおててを繋いで、くるくるとまわり始めました。
 大人たちは何事かと呆気にとられていましたが。そのうち、事情が吞み込めては警官隊達は銃をしまい。医師、看護師たちは注射器を鞄の中に片づけました。

「か~ごめ~かごめ♪」
 一生けん命、こう叫びながら、ちょうど九人の子どもらとひとりの大人こどもが、両手をつないで丸くなり、ぐるぐるぐるぐる座敷のなかをまわっていました。
 男は泣いていました。先とは異なり、ただ自分ひとりの心に向かい合い、うち明けるように男は泣いていました。いつしか男の頬を伝う涙は暖かいものとなり、さあっと消えていきました。男の顔にふっと笑顔が戻りました。

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