夢とはどんな味がするのだろうか。
滝沢はまだ若い匂いのする酒を小さなグラスに注いだ。小さな泡が立つ。
薄い金色のシャンパンのようで、思わず見惚れた。
ひとくち、口をつけるとやさしい甘みと泡のかすかな刺激が喉の奥で跳ねた。甘いだけの夢じゃないと言われたようで、滝沢は苦笑した。
*
円山に言われたからではないと自分に言い聞かせながら、滝沢は黒木酒造が見える裏路地を歩いた。田んぼが広がる中、ぽつんと浮かぶ白い塀は趣がある。
確かに観光にも使えるかもしれない。
門に通りかかったとき、中から大声が聞こえた。
かばんを抱えたスーツ姿の中年男が飛び出してくる。
追いかけてきたのは楓だった。
「待ってください!」
「何度言われても無理なんです」
楓を振り切って走り去る男に、滝沢はあっけにとられる。
男は滝沢を見るが、そのまま何も言わずに立ち去った。