「今になるとなんであんなことしたのかと思うけど。山中が『お恵みしてあげろ』とか言って、給食のときゴミ子の机に10本くらい牛乳置いてな。」
「それを瀬田がさ、なんか庇って、鬼の形相で一気飲みして昼休みトイレで吐いてたよな。」
「えぇー、優しいー、瀬田くん。」
「なんだっけな、ゴミ子って家の事情かなんかで中三の頃にはいなくなってたよな。」
公立の中学とは、残酷なシステムだったと祐介は思う。祐介らが育った地域は裕福な家庭が多く、彼も例外ではなかった。地域という小さい区切りの中でも光と影は存在する。道は境界線のように作用し、それを隔てて時代の発展に取り残されたような古い家屋が点在したが、ゴミ子はそちら側の住人だった。吉井華という名前があったが、かえってその名前が仇となり、ゴミ子と呼ばれいじめを受けていたのであった。
時刻は二十三時を過ぎ、そろそろ解散という雰囲気が流れていた。ひとり、ふたりと帰っていった。祐介は少し店に残るから、と皆を見送った。最後に見送ることになったのは真由美で、祐介は会話を探した。
「そういえば・・・って切り出すような話題じゃないけど。瀬田くん、中二のとき告白してくれたことあったよね。」
「あ・・・ったね。てっきり忘れてると思ってたよ。」
「私ね、あのころ・・・好きだったよ。瀬田くんのこと。」
「・・・え?でも、あのとき君は『考えさせて』って言ったまま、返事はなかったよね・・・」
「まぁ・・・中学生だからね。もしあのとき付き合ってたら?今もしかして・・・なんてね」
「もしなんて。」
「そう!もしなんて、ない!・・・では私は旦那の元へ帰ります。ふふ。また、帰国したときには必ず寄るわ。おやすみなさい。」