小説

『蔦結びと仮面の森』木暮耕太郎(『怪人二十面相』)

昔から人の話に割って入ってくる木下将人が加奈子の会話を遮ったところから、真由美に対して男子からの質問が殺到した。相当に月日が経ち、皆風貌も変わり、また記憶も薄れているのに、大した接点もない同級生の名前を何の滞りもなく呼んだ真由美に祐介は驚いた。そして彼女の左手の指輪を見ながら、独身の自分を恨めしく思ったのであった。
・・・

「瀬田くん、ちょっと時間がたっちゃったけど、開店おめでとう。これ、もしよかったら使って。」

真由美から手渡された小袋を開けるとそれは店の名前の印章であった。

「え、いいのかい?こんなものをもらっちゃって。」
「色々悩んだんだけどね、もうお店の印章だってあるだろうし。でもここのハンコ使うとすごい商運があがるって評判らしいからさー。」

飲みかけのワインを一口飲み、テーブルの会話に耳を傾けると皆の記憶をパズルピースのように組み合わせて昔話がどんどん鮮明化していた。

「あったあった、そんなこと。笑ったよなぁ。」
「それでさ、そのときゴミ子がさ。」
「ゴミ子!懐かしい!」

真由美は腹を抱えて笑っていた。真由美は決して清廉潔白な女ではなかった。美麗な優等生でありながら、人間の下卑た部分も適度に持ち合わせていた。

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