「あのー。ちょっと」
揺り起こされた勝野は瞼をこすりながら顔を上げた。
「あー、ごめんね。寝ちゃったみたい」
「大丈夫ですか?」
見知らぬ男性が顔をのぞき込んでいる。
見回せば、そこは寂れた公園だった。
勝野が座っているのは図書館の机と椅子ではなく、ささくれ立った屋外用の木製テーブルと椅子だ。
日が暮れかかっている。
脳裏によぎる一編の物語。
『雨月物語 浅茅が宿』――。
胸の奥が冷たい刃物で刺されたように鋭く痛んだ。
どこかで予感していた。だから、ここに来たのだ。
「宮木さん……」
勝野は思わずかつての友の名を呼んだ。
「はい」
傍らの男性が応えた。
「……は?」
「え? 呼ばれたから応えたんですけど?」
「え? え? え? ちょっと待って。あなた、宮木さんっていうんですか?」
「はい。あなたは勝野さんですよね?」
「はい?」
「その返事は肯定ですか? 否定ですか?」
「あ、その、肯定です」
「そうだと思いました」
「えっと……?」
「あなたの友人の宮木の弟です」
男性は切れ長の目をすっと細めて微笑んだ。