小説

『約束』霜月透子(『雨月物語』巻之二「浅茅が宿」)

 互いに読んだ本の感想を言い合ったり薦めたりしているうちに、いつしか将来は一緒に私設図書館をつくろうと約束をするまでになった。
「おうちみたいな図書館がいいな。玄関で靴を脱いで部屋に上がるの」
 勝野がそう提案すると、宮木は大きく頷いた。
「じゃあさ、部屋によって置いてある本のジャンルをわけるのはどう?」
「いいね。ファンタジーの部屋とか、ミステリーの部屋とか」
「リビングにはお茶とかお菓子があって、図書館に来た人たちはそこで好きな本の話とかするの」
「知らない人同士で?」
「そう。知らない人同士で。一度話したら次からは友達になれるでしょ?」
 宮木は指先で前髪を払って、勝野を見つめた。宮木の切れ長の目元にある泣きぼくろを見ながら、勝野は言う。
「わたしたちみたいに?」
「そう。わたしたちみたいに」
 二人は思い描く図書館をノートに記した。たくさんの絵や文字でノートはたちまちいっぱいになった。
 そしてそのノートをビニール袋で何重にも包み、校庭の隅に埋めた。大人になって図書館を建てられるようになったら一緒に掘り起こそうと約束をして。
 小学生の勝野にとって、宮木は唯一の友達だった。宮木にとっての勝野も同じだ。だから小学校を卒業しても同じ中学に通い、もしかしたら高校も一緒に通い、ずっと一緒にいるものと思っていた。
 けれども、そうはならなかった。
 数日後に控えた小学校の卒業式を待たずして、勝野は転校することになった。勝野自身にもはっきりとした理由はわからず、どうやら家庭の経済的な事情らしいと察するだけだった。
 そんな急な別れだったため、勝野と宮木は互いの連絡手段も持たず、二人の繋がりは途切れてしまった。

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