小説

『ももも』柿沼雅美(『桃太郎』)

「ごめん知らなかった。うちの親の愚痴とか今まで超言ってた気がする、ごめん」
「いいのいいの。そもそも私が彼氏の話しかしなかったわけだし」
「それな!あーでもごめんほんと」
「ううん。しかもおじいちゃんとおばあちゃんて本当のおじいちゃんとおばあちゃんでもないのよ」
美和が、へ?という顔をする。
「それがさ、遠い遠い親戚のまだ若い女性が私産んだけど育てられなくて赤ちゃんの時に今の家の前に置いてったみたいな」
「えええ…そんなことある?」
「分からない。現実はもっと複雑に色々あったのかもしれないけど。私が聞いてる話だとそうで。しかも、おばあちゃんが洗濯してる時に玄関で物音がして開けてみたら私が籠の中で寝かされてたらしいんだよね」
「ええ…そんなことあるかね…」
「手紙とか入ってて、遠い親戚っていうのは間違いじゃないらしいしきっとそのあと直接話したりしてるような気配ではあるんだけどさ」
ええええ、と美和が戸惑う。
「しかもその時、桃握らされてたらしいんだよね」
自分で言っていて笑いそうになる。おじいちゃんとおばあちゃんと暮らしていて不幸なことは何もなく半笑いで言えるくらい親の事は気にも留めていなかった。
「え、だから名前ももなの?マジ?もう神話じゃん」
神話って、と、くだらなさに笑ってしまう。
「それでもう私たち20じゃん?なんなら18から成人になるらしいじゃん?大人なわけだし自分の責任でそろそろ1回でも姿見てみたいなと思って、母親の」
「え、誰か分かるの?」
「分からなかったんだけど、かずくんが住所知ってるんだよね」
「なんで!?」
「中学の頃の緊急連絡先におじいちゃんおばあちゃん以外の連絡先があって、たぶんその人じゃないかって」
「有力情報じゃん。一緒に行くよ。っていうかかずくんが付いてきそう」
「心配かけたくないんだけどかずくんと二人っていうのも誰かに見られそうだし、美和に一緒に来てもらおうと思って。一人は不自然じゃん?知らないとこウロウロするって」
「だね。なんかびっくりで急に甘い物食べたくなったわ」
あ!と私はカバンから個包装のお菓子を出す。
「いいのー?ありがとうー!これなに?」
「ん?きびだんご。家のテーブルにいっぱい置いてあったから持ってきてた」
「え、きびだんご?きびだんごって本当にあるの?あれ話のなかの食べ物じゃないの?」

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