小説

『ももも』柿沼雅美(『桃太郎』)

「さぁ?なんか定期的に家に届くんだよね。めちゃおいしいよ、白桃ときなこのもある」
へーと言いながら美和が包装紙を開けて一口で食べる。もちもち~ふわふわ~と言いながら2個目を開けたところで、思わず、あ!と声が出た。
「美和が雉岡じゃん?かずくんが戌井じゃん?キジとイヌ引き連れて行くとか私桃太郎じゃん!」
「だから言ったじゃん!っていうか、それならもう鬼退治しよ?あ、違うな。親退治しよ!」
「親退治?」
「ももを捨てた親を退治しに行くわ一緒に」
「いや、そういうつもりじゃないけどさ、ただの興味本位な計画よ?」
「分かってるけど、私はちょっとそういう気持ちだからさっ」
言いながら美和が笑った。優しいなと思いながら見ていると、美和の口元からだんごにまぶされた白い粉がふわっと落ちた。

 
「ももー、お腰にきびだんご付けるー?」
美和の声がレンタカーの後部座席で言い、買ったばかりのきびだんごの包装紙をぺりぺりとめくる。
「ももも美和ちゃんも新幹線出てすぐお土産買うってどーゆーこと?」
「だって日帰りだしバタバタして買えなかったら嫌だし」
「緊張しないの?」
かずくんが隣の運転席で心配そうな顔をする。
「緊張って言うか、楽しみ。約束してるわけじゃないし、こっそり家見に行くだけだし。会って話せって言われたら色々迷うけど」
私が言うと、そっか、と頷いた。私の中では、コロナでいっぱいだった学生生活の最後の想い出に、大好きな友達と彼氏と東京以外の場所にいるというだけで十分楽しい。
カーナビに沿って駅近くの大通りを出、数十分して住宅街の路地に入った。
高層マンションがなく、行ったことのあるところだと埼玉県とか神奈川県の端っこのほうに似た雰囲気がする。
次の丁目だな、とかずくんが言う。もうすぐだね、と美和が言い、私は、うん、とだけ返してするすると通り過ぎていくアスファルトを見つめた。
「あそこっぽい」
かずくんが車のスピードを緩める。美和が後ろから身を乗り出してくる。
「どこ?」
「あの、駐車スペースで男の子が3人遊んでるとこの家」
一軒家の正面の二階には窓が3つあり、外側からでも広いのが分かる。屋根の真ん中には、サンタクロースの帽子みたいな三角のアンテナが乗っかっていた。家の手前には車2台分の半透明の屋根付きの駐車場があった。その手前に少しスペースがあり、子供がキックバイクに乗っていたり柔らかいボールを壁に当てたりして遊んでいる。子供がいるんだ、と思うとなにか不思議な感じがした。

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