小説

『ももも』柿沼雅美(『桃太郎』)

「バレるっていうか、むしろ一昨日八景島シーパラダイス行った」
「シーパラ!?ディスニーとかじゃないんだ!」
「でしょ?まずディズニーってなるじゃん?だからわざわざ思いつかないほう行った」
「なるほど。いないもんね知り合いきっと」
「まぁいてもさ、スーツ着てるわけじゃないしまず分からないよね。コロナの名残でまだマスクしてる人多いからマスクも不自然じゃないし」
バッグからスマホを取り出して美和に写真を見せる。戌井和樹と私がチュロスを挟んで顔を近づけて笑っている。だてメガネをしてマスクもして目だけしか出ていないのに、笑顔で目が線になっているかずくんを見ると今もほほえんでしまう。
「いいなぁーデート。私も彼氏ほしいいいいいいい!」
美和の、いー!と言っている姿を撮ると躍動感溢れる写真になって二人で笑う。
「未成年じゃないしバレても全然いいんだけどね」
「そろそろ言えばいいのにみんなに。まさか中学の時の先生と付き合ってるとは思わないだろうけど」
「ねーなんて言われるんだろ。でも半年しか被ってないからね、中学で教わった期間」
「そうなんだ?」
「うん。だって、私が中3の終わりのほうで急に新卒なのに数学の先生が変わってって感じだったのね。そのあと転任してたらしくて、連絡もとってないし、大学の近くで急に会ったのが去年だし隠すことないんだよねほんとは」
「ドトールでたまたま隣に座って、あれ?ってなったって言ってたもんね」
「そうそう。あ!ってなった」
「それで付き合うのかぁー、いいなー。もうクリスマスだしさー一緒に初詣とかいいなー」
「ねー。去年はかずくんの家でクリスマスケーキ食べたけど今年は去年できなかった初詣行きたいな。同級生とかかずくんの生徒に見られそうだよね」
「確かに。まぁかずくん一人暮らしなんだからいつでも行けばよくない?」
「そうなんだけどさ、夜遅いとおばあちゃん心配するしおじいちゃん鬼電してくるしさ。ラインとかずっと慣れないまんまで全部電話なんだよー。」
「だねぇ。そっか、まだ家族にも言ってないもんね」
「おばあちゃんには話そうかなって思うんだけど、なんかそういう話どうなんだろ、世代が離れすぎてて感覚が分からんのよ」
「そっかぁ。世代っていうか人それぞれなんじゃない?ももは親には全然会わないの?」
んー、と窓の方を見る。さっきまで私をくるんでいたカーテンが小さな風にくすぐったそうに揺れた。
はにゃ?と美和が間の抜けた表情をする。
「うちさー、親離婚してるって話したけど両親いないんよね実は」
美和が唇と閉じて口の中に空気をためる。膨らんだほっぺたを指で押したくなる。

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