小説

『しあわせなお地蔵様』川瀬えいみ(『笠地蔵(日本各地)』)

 雪はなかなか降りやまず、お地蔵さんたちはおじいさんたちの家で年越しをすることになりました。
 おじいさんたちとお地蔵さんたちは、これまで伝えることのできなかった感謝の気持ちを、互いに伝え合ったのです。
「お地蔵様たちのおかげで、私たちは、貧しくとも安らかな心で生きてこれました。本当にありがとうございます」
「我等こそ、おじいさんたちを見守っていることができて、幸せでした。おじいさんたちがいなかったら、我等はとうの昔にただの石になってしまっていた」
「うちの小さ子に、『おじいさんを助けて』と泣きつかれて、我等は気付いたのです。今宵、我等が何をすべきなのかに」
「すべての人々の幸福を願うあまり、すべての人々に公平であろうとするあまり、我等は誰も幸福にできずに終わるところだった」
「けれど、おじいさんと小さ子のおかげで、我等は地蔵としての務めを果たすことができました」
「うちの小さ子は、ずっとおじいさんを慕っていたんですよ。どうぞ頭を撫でてやってください」


 お地蔵さんたちとおじいさんたちは、そんなふうに、皆で語り合ったのです。
 春夏秋冬。いつもきらきらと美しく輝いていた、懐かしい思い出の数々。
 はるか遠くに過ぎ去ってしまったけれど、決して忘れることのない大切な日々
 かつて伝えられなかった、たくさんの『ありがとう』の気持ちを。


 満ち足りた時は、ゆっくりと流れます。
 冬には深い雪に閉ざされる小さな村。
 お地蔵さんたちとおじいさんたちは、語り尽くせぬたくさんの思い出を、今も楽しく語り合っているかもしれません。

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