小説

『白鶴の桜』宮脇彩(『鶴の恩返し』)

 息を切らしながら二人の顔を見上げると、微笑んで、ぎゅっと手を握り返してくれた。
 「さあ、今年も白鶴の桜を見に行こうか、さくら。」
 私の名を呼び、頭を撫でてくれる父に、私は尋ねた。
「あの丘に咲いている桜は、どうして『白鶴の桜』って呼ばれているの?」
 父は、「そうだなあ…」と、笑いながら教えてくれた。
 もともとこの丘に咲く桜は淡い桃色だった。けれどある時、そばにいた一羽の美しい白鶴が空へ飛び立ち、風と共に去ると同時に、その桜は雪のように真っ白になったのだそうだ。
 昔、この桜が満開の頃、通りすがりの旅人が、その不思議な光景を見たらしい。
 「さくらは信じるかい?」と私の顔を覗き込む父に、私は少し考えて、言った。
「じゃあ、きっとどこかに、薄桃色の鶴がいるのね。」
 父は、大きな声で笑った。母も、「そうかもしれないわね」と、笑っていた。二人の笑顔が嬉しくて、私もいっぱい笑った。
 三人で手をつなぎ、私の小さな歩幅に合わせて、私たちはゆっくりと、丘を登って行く。頬を、薄桃色に染めながら。

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